P2Pファイル共有ソフトWinny(ウィニー)の完全遮断を打ち出したが,総務省の見解を受けて一時断念していたぷららネットワークス。そのぷららが6月13日,Winny遮断サービスを7月19日から提供すると発表した。提供までの経緯とその意向を,ぷららネットワークス事業推進室の弘灰 和憲室長に聞いた。(聞き手は藤川 雅朗=日経NETWORK)

ムービー一覧

  Movie No.1 : 総務省の見解に沿ってサービスを展開した結果だ

  Movie No.2 : 今回の対策は総務省も認めている

  Movie No.3 : ユーザーの8割以上が支持

  Movie No.4 : Winny通信は止めるべきだ


---今回のWinny遮断サービスの概要について教えてください。


ぷららネットワークス事業推進室の弘灰 和憲室長
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 FTTH(Bフレッツ)ユーザー向けに提供済みの「ネットバリアベーシック」というサービスに「Winnyフィルタ」の機能を持たせます。ネットバリアベーシックは,パケット・フィルタリングとURLフィルタリングを標準機能として無料で提供するサービスです。Winnyフィルタもデフォルトで「オン」に設定されます。

 ご存知のように,ぷららではWinnyを完全に遮断する意向だったのですが,総務省から「通信の秘密の保護を侵害する可能性がある」という見解が出た以上,そのままの形ではサービスを提供できなくなりました。総務省の見解に沿った形で,Winnyを遮断するにはどういったサービスがあるのか検討した結果,すでに提供している「ネットバリアベーシック」に「Winnyフィルタ」の機能を持たせることにしました(Movie No.1)。

---今回のサービスが総務省から「問題がある」という見解を示されることはないですか?

 「ネットバリアベーシック」では,成人向けサイトなどへのアクセスを遮断する「URLフィルタリング」の機能と,特定のアプリケーションの通信を遮断する「パケット・フィルタリング」の機能をすでに提供しています。これらも,“通信の秘密”という観点からすると,それを侵害するというところがベースにあります。しかし,「ユーザーの同意を得る」という前提があるので,このサービスは特に問題ないと総務省から聞いています。今回のWinnyフィルタについても同様です(Movie No.2)。

---Winnyフィルタは,すでにBフレッツでぷららのサービスを利用しているユーザーにも適用されるのですか?

 はい。既存のユーザーも対象になります。ただ,既存のユーザー向けには,6月15日からの1カ月間を周知と設定の期間として,ぷららのWebサイトから設定を変更できるようにします。もちろん,サービス開始以降でも,設定変更は可能です。

---Winny遮断については,ユーザーの反発も多かったのではないですか?

 実はこの点については,サービス開始に先立ってユーザーを対象としたアンケート調査を実施しています。ぷららのサポート・ダイヤルに問い合わせがあったユーザーに対して「Winny遮断」に関する意識調査を行った結果,Winnyフィルタは「必要」あるいは「どちらかといえば必要」と答えたユーザーが8割以上でした(Movie No.3)。

 このように,規制が必要だと考えているユーザーもいるのです。総務省からは「Winnyの完全遮断はNG」という見解が示されましたが,だとすれば「できる範囲でやろう」というのが今回のサービスです。Winny通信は止めるべきだと思いますし,止めたいと考えています。多くのユーザーもそう考えています。ただ,一律で止めることはできないので,今回のような対策になったのです(Movie No.4)。

---Winny以外のP2Pファイル共有ソフトを介した情報漏えい事件も起こっています。ユーザー保護の観点から,Winny以外のアプリケーションを対象に加える予定はありますか?

 どこまで追随していくべきなのか,どこまで対応できるのか,今後検討していきます。

---「ネットバリアベーシック」はFTTHユーザーを対象としたサービスですが,ADSLユーザーに範囲を広げるという考えはないのですか?

 実は,FTTHとADSLで,帯域制御に使うぷらら側の設備が異なります。ユーザー個別にトラフィックを制御する機能は,FTTH側に導入した新しい装置にしか備わっていないので,現状では,ADSLユーザーにネットバリアベーシックを提供することはできません。今後も,ユーザー数が急増しているFTTH向けに設備を増強していく計画なので,現状はADSLへの対応は考えていません。

---Winnyフィルタに関して「企業向けネットワークスポンサー制度」というものを計画されていますが,これはどういったものなのですか?

 企業は,自宅に仕事を持ち帰った社員がWinnyなどを介して情報を漏らしてしまうことを心配しています。そこで,Winny遮断を前提に,自社の社員向けにぷららのプロバイダ料金の一部を会社が負担する制度を考えました。実際に企業ユーザーからのニーズを受けて検討したサービスです。

---「Winny遮断サービス」の提供について,追随してくるプロバイダがいると思いますか?

 表立ってではないですが,Winnyへの対応という面では,ぷららを評価する声も伝わってきています。プロバイダの担当者とのやりとりの中では,「特定のアプリケーションの通信を遮断するということは,プロバイダのやるべきことなのか」とか,「どこまですべきなのか」といった議論もあります。ぷららが「Winnyの完全遮断」を打ち出したあと,他のプロバイダは総務省がどう対応するのかを見てたという側面もあるでしょう。

 ただ,ここに来て「通信の秘密」に関するアプローチの限界が見えてきたと思います。追随するプロバイダが出てくるかもしれません。この件についてはユーザーからもいろいろな意見が出てくると思うので,聞いてみたいですね。