著者の藤本篤志氏。USENとスタッフサービス・ホールディングスで取締役を歴任
著者の藤本篤志氏。USENとスタッフサービス・ホールディングスで取締役を歴任
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『御社の営業がダメな理由』(新潮新書)
『御社の営業がダメな理由』(新潮新書)
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 2006年5月に出版された『御社の営業がダメな理由』(新潮新書)が、紀伊国屋書店の新書週間ベストセラーランキングの9位(5月29日~6月4日)に入るなど、幅広い支持を得ている。この本は、「優秀な営業担当者は育成できない」「売れるかどうかは確率で決まる」などと言い切り、これらのことを前提とした理論的・組織的営業手法を説く。

 著者である、グランド・デザインズ(東京・港)の藤本篤志社長に話を聞いた。自身も大阪有線放送社(現USEN)で営業担当者、営業マネジャーとして抜群の成績を上げ、人材派遣大手のスタッフサービス・ホールディングスで営業担当取締役を務めた経験を持つ。

——この本では「営業結果=営業量×営業能力」など、3つの方程式を示しています。このうち、営業能力を伸ばすのは容易ではないため、営業量を増やすことの重要性を説いています。

 私は、独立するまでの約20年間、大阪有線放送社と、スタッフサービス・ホールディングスで営業の仕事をしてきました。当初は、有線放送の契約を取るための飛び込み営業を繰り返す毎日でした。このなかで、「飛び込む量(営業量)のほうが営業センスより重要だ」ということに気づきました。

 飛び込み営業先では、一定確率で「有線放送サービスがちょうど必要だった」という顧客に出会います。こうした顧客に当たれば、個々の営業担当者の営業センスとは関係なく契約を取れるのです。であれば、個々人の営業量を増やせば、自動的に契約数も増えます。

 その後、私はスタッフサービスに転職しましたが、同社ではそれ以前から私の営業理論に似たことを大規模に実践して、成果を上げていました。人材派遣の場合、営業担当者が顧客企業で欠員が出た場面に遭遇することが受注に直結するため、有線放送以上に営業量の管理が重要になります。これを見て、私は自分の営業理論に汎用性があることを確信しました。

——「営業量」を増やすにはどうすればいいのですか。

 まず営業日報を無くすことです。営業日報を記入する仕事は、営業担当者を働いている気にさせますが、実際にはその時間の分顧客訪問などはできず、営業量が減ります。

 営業担当者は誰でも、自分の働きを良く見せようとします。営業日報に「成約の見込みあり」と書いてあっても、営業マネジャーは実際にどの程度の見込みがあるのか判断がつきません。営業日報を毎日読んでも判断材料になりにくいため、まとめて斜め読みする営業マネジャーも多いことでしょう。要するに、営業日報による管理は間違っているということです。

 私は、営業日報の代わりに、毎日夕方以降に30分間、営業マネジャーが部下である営業担当者に対してその日の訪問先や結果の報告を聞く「ヒアリング」をすることを提唱しています。部下が8人いれば毎日4時間かかることになりますが、そもそも営業マネジャーの仕事は、部下の管理であるはずです。

 ヒアリングをすれば、営業マネジャーは「部下の訪問先の役員に友人がいる」といった場合、すぐに行動を起こせます。営業のチャンスは毎日生まれて、毎日消えていきます。その日に起きた課題には、その日のうちに対処しなければなりません。

 営業担当者にとっては、毎日30分の時間を作る必要がありますが、営業日報を30分以上かけて作成していたケースに比べれば、営業量は増やすことができます。そして何より、目の前の上司に向かって「実は喫茶店で1時間サボっていた」といった報告はできません。毎日実のある報告をしようとするため、結果的に営業量は増えるわけです。

——SFA(営業支援システム)のような情報システムの導入は有効ですか。

 既存のSFAは営業日報の電子版という側面が強いと考えています。本当は営業日報の電子化ではなく、営業力をいかに高めるかというところに踏み込まなければなりません。個々の営業担当者の強みや弱みを数値化して、営業マネジャーが部下にアドバイスするための材料にすべきです。このような考え方の新しいSFAを現在開発しているところです。

 しかし、SFAを導入しても毎日のヒアリングは絶対に必要です。例えば、営業マネジャーが部下に「今日行った訪問先で、ちゃんと次回のアポを取ってきたか」と言うようなやり取りは、人間同士でなければできないのです。