写真◎都内で講演する米IBMのサミュエル・パルミサーノ会長兼CEO
写真◎都内で講演する米IBMのサミュエル・パルミサーノ会長兼CEO
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 米IBMのサミュエル・パルミサーノ会長兼CEOは6月9日、東京都内で顧客企業のCIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)を対象に講演した(写真)。「Innovation That Matters~なぜ今イノベーションが重要なのか?」と題したプレゼンテーションでは、大きく二つの点を強調した。一つはIBMの世界戦略において、インドと中国の市場や現地法人が極めて重要なことである。

 パルミサーノ会長は講演を始めるとすぐ、今回の来日直前に訪問したインドと中国について言及。「インドや中国には今後、多くの科学者や技術者が生み出されていく。ネットワークで接続されフラット化した社会では、こうした知識が開放されていく。これを社会のイノベーションのために活用していかなければならない。もはや自分の地域を守るという時代ではない」との考えを披露した。

 そして、「これらの地域は、世界のバックオフィスになりうる。こうした能力をオンラインで生かしていかなければならない」(パルミサーノ会長)とした。IBMが顧客のシステム開発やサービス提供を行ううえで、地理的な区分けや制約が存在しないことを宣言したといえる。

 パルミサーノ会長は今月6日、インドでの現地社員集会においてインドへの投資を従来の3倍に拡大するとの計画をぶち上げた。具体的には、過去3年間に投資した20億ドルを、今後3年間で約60億ドルにまで拡大する。アウトソーシング・サービスで利用するデータセンターの建設や、技術検証センターの設立などを予定している。

 2点目は、IBMが技術をベースに、自社のビジネスモデルを大きく変えていることだ。他社や顧客の意見を柔軟に取り入れていることを強調した。具体例として、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)と東芝と共同開発した新型プロセサ「Cell」を搭載する、SCEのPS3やIBMのサーバーを挙げる。両製品が今年、市場投入されることについて、パルミサーノ会長は、「協業モデルによって実現されたCellが、今までにないコンピュータの作成を可能にした」と話す。

 IBMの収益を支えるメインフレーム「System z」についても、ビジネスモデルが変わってきたと話した。「我々はSystem zに10億ドルの研究・開発費をかけている。企業のCEOの意見を聞くなど顧客とのコラボレーションも強化している。結果として、IBM自身も変わってきた」(パルミサーノ会長)という。例えば、独自OSだけでなく、Linuxが稼働するハイエンドの「オープン・メインフレーム」としての位置づけである。

 パルミサーノ会長の講演後に登壇した日本IBMの大歳卓麻社長は、日本の優位性を補足した。「従来、経営を支える情報システムとしてMIS(経営情報システム)やSIS(戦略情報システム)といった考え方があったが、いずれも成功しなかった。コンピュータも価格が高く、通信も帯域が狭かった。今は違う。特に日本はブロードバンドなど通信が安価な国になった。絵に描けるイノベーティブなアイディアを実行できる」とした。