「Thunderbirdはメールの安全のために開発を始めた。累計ダウンロードは2600万件に達した。従業員4万人の企業でも使用されている」---米Mozilla Corporationでオープンソースのメール・クライアントThunderbirdを開発しているリード・エンジニア Scott MacGregor氏に話を聞いた。次期版Thunderbird 2.0は今年秋リリースを予定しており,迷惑メールやフィッシングへの対策,メールの整理機能を強化するという(聞き手はITpro編集 高橋信頼)
---もともとNetscape Communicationsにおられたのですか。
はい,1998年にNetscape Communicationsに入社しメール・クライアントの開発を担当していました。現在はMozilla Corporationに所属しThunderbirdの開発を行っています。Thunderbirdのリード・エンジニアは2人おり,私はそのうちの1人です。
---Thunderbirdプロジェクトはどのように始まったのですか。
もともと,スパイウエアや過剰なポップアップ広告といった問題に対処し,インターネットの安全性や使いやすさを向上させるために,Firefoxの開発プロジェクトが始まりました。その際にFirefoxと一緒に始まったのがThunderbirdプロジェクトです。溢れかえるジャンクメールやプライバシー侵害からユーザーを保護することが目的でした。
もっとも最初はThunderbirdという名前ではありませんでした。FirefoxはPhenix(フェニックス,不死鳥)という名前で開発が始まりました。メール・クライアントは同じく伝説上の生き物の名前ということでMinotaur(ミノタウロス,クレタ島の迷宮にいたという牛の怪物)と呼ばれていました。しかしFenixは商標上の問題でFirebirdという名前になり,メール・クライアントもそれにあわせてThunderbirdと呼ばれるようになりました。
さらにまた商標の問題でFirebirdはFirefoxになったのですけれど,Thunderbirdはそのまま残ったというわけです。
---Thunderbirdは現在どのくらいのユーザーに使われているのでしょう。
Thunderbirdはこれまでに累計で約2600万件ダウンロードされました。最新版バージョン1.5は約1000万件です。
多くの企業でも使われています。ある企業では約4万ユーザーがThunderbirdを使用しています。日本でも従業員約1万5000人の企業で採用されていると聞いています。
---Thunderbirdの開発にはどのくらいの人々が参加しているのですか。
ThunderbirdとFirefoxは約80%のコードを共有しており,ほとんどの開発者は両方にかかわっていると言えます。約100人のアクティブな開発者がいます。
また数千人のテスターがいます。毎晩Thunderbirdを自動ビルドしているのですが,彼らは朝イチで最新のビルドをダウンロードしてチェックしてくれます。
---開発で苦労していることは。
多くのボランティア開発者が非常に情熱を持っていろんなアイデアや意見をぶつけてきてくれます。それらを交通整理するのが大変ですね。ただしそれが我々の強みでもあり,楽しみでもあります。
---次期バージョンではどのような機能が追加されるのですか。
次期版Thunderbird 2.0は今年秋,10月ごろにリリースを予定しています。機能拡張のテーマは3つあり,ひとつはメールの整理・管理,より効果的な情報提供,迷惑メール対策です。
メールの整理・管理という面では,カスタマイズできる仮想フォルダがあります。お気に入り,未読,最近使用したメールといったフォルダができます。また,コンテンツにタグを付けることのできるWebサイトが増えていますが,同様にメールにタグを付けて整理できるようになります。
より効果的な情報提供という面では,メール新着時に画面右下にポップアップでメール内容が表示されるようになります。またフォルダのサマリがポップアップ表示されます。
迷惑メール対策では,Thunderbirdには迷惑メールを学習して判定する機能がありますが,この判定アルゴリズムの改良を行います。フィッシング・メール判定機能も強化し,フィッシングに悪用されているサイトのURLリストを参照して判定するようになります。
次のThunderbird 3.0では,エンジンであるGeckoが新しくなります。FirefoxとThunderbirdはともにGecko上にXUL(ズール,XML User Interface Language)と呼ばれる言語で記述されたアプリケーションですが,両者は約80%のXULコードを共有しています。3.0ではXUL Runnerと呼ばれるXUL実行環境の上で動作するようになり,コードの共有によって軽量化されます。
また「エコスシテムの構築」の構築も大きなテーマです。具体的にはユーザーが開発するThunderbirdの拡張機能を増やすことです。
---Thunderbirdのおすすめの拡張機能は。
オンラインでアドレスブックを同期したり共有したりできるPlaxo Toolbar for Thunderbirdは便利です。またちょうど先日リリースされたばかりなのですが,Orb VideoMailはビデオ・メールを見ることができる拡張機能です。Google DesktopもThunderbirdのメールを検索することができます。
---開発していて最もうれしかった時は。
1.0をリリースした時ですね。リリースするまでプレッシャがありましたから。でも疲れていたため,祝うというよりすぐに寝てしまいました(笑)。
---メールを始めとするさまざまなデスクトップ・アプリケーションが,次第にWebベースに移行していくという見方があります。
Webアプリケーションとデスクトップ・アプリケーションには相乗効果があります。例えばGmail,Yahoo MailといったさまざまなWebメールのデータをThunderbirdに集約すれば便利です。両者は共存していくと思います。
◎関連資料
◆Thunderbird 2.0 ロードマップ(Mozilla Japan)