成田空港第一ターミナルにある全日空の自動チェックイン機
成田空港第一ターミナルにある全日空の自動チェックイン機
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 全日空は6月2日に成田空港第一ターミナルへの移転に伴い、自動チェックイン機を刷新するとともに大幅に増やした。1台の端末で、ユナイテッド航空やエアカナダなど、全日空が加盟するスターアライアンスグループの航空会社4社の搭乗手続きができる。

 設置台数は126台で、同社によるとほかの航空会社と共用するチェックイン機としては世界最大規模だという。うち4台は日本で初めて「カーブサイド」と呼ばれるバスが到着する車寄せに設置した。対象となるのは、ビジネスクラスとエコノミークラスに搭乗する顧客だ。

 自動チェックイン機拡充の狙いは、搭乗手続き時間の短縮にある。例えばエコノミークラスでは、出発便が重なる朝のラッシュ時だと、空港ターミナルに到着してから搭乗手続き完了までに待ち時間を含めて最長約70分かかることもあったが、18分以内に完了することを目指している。

手荷物検査の方法も変わった

 第一ターミナルに入るとすっきりとした印象がある。ずらりとチェックイン機が並び、有人のチェックインカウンターよりも多い。エコノミークラスでは自動チェックイン機が22台に対して、有人のチェックインカウンターは3ブースにとどまる。

 航空券を持った顧客はスーツケースなど預ける荷物をチェックイン機の横にある台に置き、端末で搭乗手続きを行う。これまで航空会社の担当者が行っていた、座席指定やパスポートの読み取りなども顧客自身が操作する。

 預けた荷物の検査方法も変わった。従来は搭乗手続き前に手荷物検査を受ける必要があったが、「インラインスクリーニング」という検査システムの導入により、搭乗手続き後に実施する体制となった。手荷物検査の順番待ちが、搭乗手続き完了までに時間がかかる原因の1つだっただけに、時間短縮への効果は大きい。

成田通いで改善要望の生の声拾う

 全日空はチェックイン機の導入を、省人化ではなく、顧客へのサービス向上に活用する。チェックイン機2台に対して係員が対面に1人つき、顧客側に3人配備する。操作方法や乗り継ぎに関する案内などを行う。これまでカウンターでは入力など作業に没頭してしまい会話ができていなかった。対面にいる担当者には2台のモニターがあり、顧客の氏名や顧客への連絡事項などが分かる仕組み。「表示された情報を基に会話が弾むようになった」とオペレーション統轄本部旅客サービス部の野口博史アシスタントマネージャーは言う。搭乗手続きが終了すれば、最後に係員が預ける手荷物に荷物タグをつけて完了となる。

 搭乗手続きを自動チェックイン機主体に切り替えるために、端末の使い勝手を向上させた。使い勝手が悪ければ端末の利用率が下がり、有人のカウンターに列ができてしまう恐れがあるからだ。国際線への自動チェックイン機は2年前から導入が始まり、今回で3世代目となる。実際、初代では利用率が7%と低迷していた。1つの画面で最大で4項目も決定しなければならず、「利用者が面倒に思ってしまった」(野口氏)のが原因だ。

 2005年4月に導入した2世代目は1つの画面で決定する項目を減らし、49%まで利用率が伸びた。今回の刷新における目標は60%。さらに利用率を伸ばすには、海外へたまにしか行かない人でも端末を利用してみようと思われなければならない。そこで、全日空は利便性を向上させるための「刷新プロジェクト」を進めてきた。

 野口氏らは刷新に向けて1年前から準備してきた。このうち半年を現状分析に費やした。野口氏も最も混雑する朝のカウンターに入り、顧客の生の声を吸い上げていった。「報告を受けて聞くのと、実際に体感するのとでは受け止め方が全然違う。週に2~3回は成田へ通った」という。成田空港で手続き業務を担当するメンバーからもファイル3冊分の改善提案が集まった。

端末利用率は目標を達成

 さらに、全日空が画面のヒントにしたのが銀行のATM(現金自動預け払い機)だった。ATMの操作は「はい」「いいえ」を選択していくだけで完了するように設計されている。「老若男女の誰もが使えるように画面設計している。文字の大きさなど参考にできたことが多かった」と野口氏は話す。

 そのほか鉄道切符の自動販売機で使いにくい点などを参考にしながら作り込んでいった。これらの改善提案を盛り込んで、2世代目に比べて画面数を1.5倍にしてより分かりやすい画面に切り替えた。3月に試作機が完成し、「パスポートの読み取り時間が長すぎる」「100台同時に動かすと画面が止まってしまう」などといった不具合や改善点をつぶしていった。

 さらに課題となったのが、ほかの航空会社との共同利用だった。エアカナダとオーストリア航空は全日空のシステムを利用していたので問題なかったが、ユナイテッド航空は自前のプログラムを持っていた。ユナイテッド航空のプログラムを修正すると、全日空のプログラムが動かなくなるといったバグが見つかりだしたという。こうしたプログラムを修正したり、担当者からの改善案を盛り込むなどして5月中旬に完成にこぎつけた。

 移転から1週間がたち、当初の目標だった利用率である約60%を達成した。年内にはルフトハンザ航空とアシアナ航空も対応予定。利用できる航空会社を増やすことで、さらなる利用率向上を目指す。