「こうやって,ローカルにpingを打つと,アドレスがIPv6のコロン,コロン1になります。VistaではIPv6がデフォルトになっているからです」。マイクロソフトのIT Proエバンジェリストである田辺茂也氏はWindows Vistaを使ってこんなデモを披露した。「Interop Tokyo 2006」2日目の基調講演での1コマである。この基調講演の前半では同社ダレン・ヒューストン社長がスピーチし,後半は田辺氏がネットワーク/システム管理者が気になる点にフォーカスしてWindows VistaとLonghorn Serverのデモを行った。

 「みなさん,こんにちは」と日本語であいさつをしたヒューストン社長は,日本の課題として米国では何らかのスタンダードに基づいたシステムを使っているのに対して日本ではカスタマイズしたシステムを使っている点と,コンピュータ・サイエンスを学ぶ若者が足りない点を指摘した。

 今日からベータ2が一般にも公開されたWindows Vista(関連記事)については,セキュリティ機能とネットワーク接続性が向上していると強調した。「3分の1のコストで導入できる」(ヒューストン社長)という点も紹介された。

Longhornの強化された管理機能を披露

 後半は,田辺氏が「VistaとLonghornはだいぶ方向性が違うことがはっきりしてきた」とデモを始めた。次期サーバーOSのLonghorn(開発コード名)は1年以上先のリリースであり,公開されている情報はまだ限られている。「Vistaはユーザーに便利な機能を提供しているが,LonghornはServer Managerというツールだけですべてやる」と端的に説明した。Server Managerにすべての管理機能が統合されており,役割ベースの管理ができるという。そして,「Active Directoryを用いてユーザーとパソコンをポリシーで管理できるようになる」と語った。

 Longhorn Serverの具体的なデモとしては,Active Directoryによるセキュリティ管理をデモした。「ユーザーからのリクエストが多い機能として,USBメモリーの使用制限がある」と背景を説明して,「Active Directoryで一括管理して使わせなくできる」とデモを始めた。Server Managerの画面上で「特に指定しない限りはデバイスをインストールさせない」と表示された項目をチェックしたあと,田辺氏はVista機にUSBメモリーを接続。最初,パソコンの画面には「新しいデバイスが接続されました」と表示されたが,しばらくすると「ポリシーによってデバイスをインストールできませんでした」と表示され,USBメモリーの使用を禁止できることをアピールした。

 続いて田辺氏は,ノートPCを紛失してしまった場合に備えたソリューションをデモした。USBメモリーをパソコンに挿さないと,OSを起動できなくするデモである。BitLockerを用いて,ハードディスク全体を暗号化することで実現している(関連記事)。

キャラクタ・ベースの新操作環境Power Shellをアピール

 LonghornではServer ManagerによるGUIベースの管理だけでなく,コマンド・ラインによる管理ができるようになる。「Power Shellと呼ぶシェルで,GUIとまったく同じことができる」と田辺氏はこちらの新機能の紹介も忘れなかった。田辺氏はlsやmanといった一般的なコマンドを打ち込んで,動作することを示した。さらに,パイプでコマンドをつないで一連の処理を1行ですますことも披露した。

 ここまではシェルならできて当たり前といえば当たり前だが,テキスト・データとしてだけでなく,.NETオブジェクトとしてパイプ処理できる点がマイクロソフトらしい。通常のテキスト・データをソートするには,何文字目からソートといった指定をすることになるが,Power Shellでは,ログ・ファイルをサービス名でソートするといった指定ができ,操作性が高まっている。その結果をHTMLのグラフにしてInternet Explorerに表示するといった芸当が1行のスクリプトでできることも田辺氏は実演した。「今年末に完成し,いろいろなサーバー製品に付くようになる」と田辺氏はPower Shell関連のデモを締めくくった。

 続いて田辺氏は冒頭で触れたpingによるIPv6を披露した後,QoS(サービス品質)設定のデモをした。HTTPを8080番ポートでも使えるようにし,これに対して「10kbps」のスロットを割り当てた。このように設定したあとで,巨大なファイルを80番ポートと8080番ポートで同時にダウンロードした。80番ポートでのダウンロード・ウインドウは着々とプログレス・バーが延びていくが,10kbpsに制限された8080番ポートではなかなか延びず,QoS設定の効果が目で見てわかった。

P2Pを全面採用したOffice Grooveのエピソードで締めくくる

 デモの最後に田辺氏は,P2Pによるコラボレーション・ソフト「Microsoft Office Groove 2007」を披露した(関連記事)。ユーザー間で「ワークスペース」を共有することができる。メンバーが同時にオンラインになっていなくても,ワークスペースの更新情報はリレー・サーバーに蓄積され,オンラインになった時点で,アップデートされる。日本ではWinny(ウイニー)でネガティブなイメージが強まってしまったP2Pソフトだが,マイクロソフトがOffice Systemsの一つしてP2Pソフトを取り入れたことで,今後,P2Pソフトに対する評価が変わるかどうか注目される。

 田辺氏の一連のデモのあと,再び登壇したヒューストン社長は,飛行機内で席が離れてしまった人とGrooveを使って,機内で資料を作成したエピソードを披露した。「飛行機が着いたときには,仕事が完了していた」(ヒューストン社長)。

 ヒューストン社長はマイクロソフトに入社する前はスターバックス・コーヒーの副社長として,スターバックスの店舗に無線LANアクセス・ポイントの導入を推進した人物でもあり,「マイクロソフトは,WiFiの標準化にも積極的に貢献した」と相互接続性の推進者であることを強調した。最後に1年前の社長就任会見の際に発表した「PLAN-J」(関連記事)に触れ,講演を締めくくった。