「Interop Tokyo 2006のサブテーマ“Back to the Fundamentals”が実行委員会で決まったのは,実は元ライブドア社長の堀江氏が逮捕された当日で,業界が大混乱に陥ったときだったんですよ」と,開口一番,メディアエクスチェンジ社長の吉村 伸氏は切り出した。どんな話が始まるのかと関心を引きつけたところで,「Interopは“more Technical”という精神に則っているので,技術的な話題が主体ではない講演は評価が低いんです。昨今の話題などを取り上げて脱線したいのは山々ですが,今日は“Fundamental”,つまりコンピュータ・ネットワークの原理に立ち返って,将来を展望したいと思います」と,Interop Tokyo 2006の基調講演を始めた。

 本論に入る前に吉村氏が強調したのは「コンピュータ・ネットワークは物理学の原理を超えるマジックではない」ということ。前の基調講演で話した村井教授が引用した雷の話を持ち出し(村井教授の基調講演記事「最高のデジタル・ネットを作って世界に発信しよう」はこちら),「光と音はインターネットを使えば同時に送れるという話だったが,光ファイバで伝送すると伝播速度は30万km/秒の2/3まで落ちる。さらに光ファイバの敷設した時期や距離によっても,理論値から落ちていく」と解説。つまりコンピュータ・ネットワークの将来を考えるSEなら,これらの物理学や熱力学,電磁気学などの原理を理解していることは前提であると釘を刺した。

 吉村氏がIPv4ネットワークからIPv6ネットへ移行する際の課題の一つとして指摘したのは,PPP(point to point protocol)によるダイヤルアップ接続サービスの普及により,アドレスを固定化しないことに慣れたこと。本来,アドレスは識別子であると同時に,ネットワーク上の位置を表すものなので,固定され,管理されたネットワークであるはず。特にIPv6は,トポロジーに依存する。IPv6が広く普及する前には,「IPアドレスを固定しなくてよいのか,あるいは誰に固定すればよいのかというアドレスのオーナー問題を考えておく必要がある」とIPv6普及の課題を披露した。

 IPv6時代のインターネットは,「アドレスは自動割り当てとし,それをいちいち認証しない。名前はDNSによって有料で解決することになるだろう」。すでにそれを実現するようなサービスも出ているという。吉村氏が例に挙げたのは,Panasonicが提供しているネットワーク・カメラのオプション・サービス「みえますネット」だ。ネットワーク・カメラの電源を入れると,Panasonicが用意しているDNSサーバーへアクセスして自分のIPアドレスを自動登録する仕組みである。

 IPv6時代のインターネット・プロバイダ(ISP)の役割についても,OSIの7階層モデルを例に出して示唆した。「ISPの役割はレイヤー3より下はサービスせず,メールやWeb,ブログなどのサービスだけを手がけるようになる」という。

 最後は未来のコンテンツ配信ネットワークの姿についてもさらりと触れながら,「続きを聞きたい人は,夕方のカンファレンスで...」と,聴衆の興味を次の自身のカンファレンスに引き継ぐことも忘れなかった。