6月7日に千葉市・幕張で開幕したInterop Tokyo 2006の基調講演に立った慶應義塾大学・村井 純教授は,通信と放送の将来を展望して「アナログテレビジョン放送が停波する2011年までの5年間は,IPを使った新しいデジタル・コミュニケーションをどう作っていくかが日本の課題だ」と指摘した。インターネットは,これまで無線,有線ともにブロードバンドへと発展した。これに伴い,人間はあらゆる情報(コンテンツ)にアクセスできるようになった。そして放送がデジタル化されることによって1対多の双方向コミュニケーションが実現する。そこには,まったく新しい知性を生み出す可能性があると言う。

 「私たちが自然界で行っているコミュニケーションのモデルはさまざまある」と言った後,会場に向かって突然,「おーい」と呼びかけた。とっさの出来事だったので,満員の聴衆は一瞬,何が起こったのかよくわからず反応できなかったが,「これは犬の遠吠え型のコミュニケーション・モデルです」と説明。犬の遠吠えは特定の犬に発するものではなく,不特定多数の犬に向かって発し,それを聞いた犬が応えるモデルだ。「このようなコミュニケーションをデジタルで行うプロトコルはまだない。そんな新しいプロトコルを若い人たち実現してほしい」と村井教授。

 このような新しいデジタル・コミュニケーションを実現するカギになるのが,アンワイヤード・ネットワークだという。「線」がなくても自由に話ができるアンワイヤード・ネットワークは,「人間にとって完全な自由と創造性を与えてくれるインフラになる」。そしてアンワイヤード・ネットワークの核となるのが,無線技術である。それは無線LANや携帯電話だけではない。私たちの周辺にかなり浸透しているRFIDや,お財布ケータイなどもそうだ。センサー・ネットワークやデバイス・ネットワークなど,アンワイヤードのニアフィールド・コミュニケーションを実現している例は,日本にはあれている。例えば,日本ではすでにRFIDのリーダー/ライターが何百台も市場に出回り,インターネットにつながっている。「こんな国は世界中のどこにもない」と村井教授。

 さらに村井教授は映像をインターネットで上手に流す技術は,これから5年間で花開いていくはずだと力説した。「見てほしいデモがある」といって,コンファレンス会場の両端に設置されているディスプレイに「Show Net TV」の非圧縮HDTV伝送による映像を表示して紹介した。両ディスプレイは同じ映像だが,一方の映像には,ToSフィールドの制御を加えているという。トラフィックで混雑しても映像が劣化しないことを,インターネットの標準技術で実現できることを証明したわけだ。

 「利用環境的にも技術的にも,日本はどの国よりもいい状態にある。日本が先頭に立って,これからのデジタル・コミュニケーションを実現する新技術を作っていこう」---村井教授はこう締めくくった。