Stuart Cohen氏
Stuart Cohen氏
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 「米SCO Groupによる訴訟問題は事実上終わったが,他のITの分野で起きたのと同じことがこれからLinuxにも起こる。しかし,Linuxは今後も急拡大する」---Linux普及団体OSDL(Open Source Development Labs)CEO Stuart Cohen氏がLinuxの将来を展望した。Cohen氏はこれからも多くの問題が起きるとしながら,Linuxはそれを乗り越えて急拡大すると予測する(聞き手はITpro編集 高橋信頼)

---かつてLinus Torvalds氏がジョークで「世界征服を目指している」と言っていましたが,それがあながちジョークとも言えなくなっています。Linuxがさらに普及するための課題は何でしょうか。

 おっしゃるとおり,Linuxは広く普及しました。サーバー分野を例にとれば,15四半期連続2桁成長を達成しています。

 課題は,サーバーやデスクトップ,組み込みなどそれぞれの分野で異なるでしょう。

 サーバー分野では,デバイス・ドライバでしょう。現存の様々なデバイスに追随する必要があります。また,システム管理および仮想化も重要です。特にOSDLのカスタマーカウンシルに参加しているような大企業は,今後2-3年でサーバー台数が2万を超えると予測しており,システム管理と仮想化は大きなポイントです。

 デスクトップ分野では,新興国向けの低コストなPCとして,不正コピー対策としてLinuxは有効です。FirefoxとOpenOffice.orgは非常によくなっていますが,さらなる普及のためにはさらに良いものにしていく必要があります。

 モバイルとのインテグレーション,Linuxカーネルとして改良する必要があります。OSDLでは「Mobile Linux Initiative」で取り組んでいます。

 通信事業者向けも伸びています。無線インフラでは,最近Carrior Grade Linuxワーキング・グループのメンバーがかかわった商談の90%以上で通信事業者はLinuxを要件としていました。

 重要なことは,1つのカーネルで様々な分野に適用できるようにすることです。そうすれば柔軟性やコストの面で非常に有利です。

---OSDLはFreedom Law Centerを設立するなど法律面での活動に力を入れています。米SCO GroupがLinuxの知的所有権侵害を主張して起こした訴訟の現状についてはどう見ていますか。

 その話は終わりました(笑)。訴訟が完全に決着したわけではありませんが,ユーザーもベンダーももう話題にしていません。SCOが主張するような事実はなかったということでしょう。

 しかしこの訴訟はLinuxとオープンソースにとってよいことだったと考えています。多くの人がこの問題に関心を持ち,Linuxの知的資産の調査も行われました。結果的にLinuxの拡大に寄与したと思います。

---とはいえ,SCOのほかにも将来,法的な問題が持ち上がる可能はあります。

 Linuxの市場は,サーバーと組み込み分野をあわせて,現在全世界で約400億ドルになります。2009年には1000億ドルに拡大すると考えられています。

 これだけ大きくなれば,当然ベンダーにも勝ち組と負け組に分かれる。これまでITのほかの分野で起きたのと同じことが起こるでしょう。すなわち,勝ち組は今のゲームのルールを維持しようとし,負け組はルールを変えようとします。法的な問題は起こるでしょうし,技術的な問題も起こるでしょうし,ビジネスの問題も起こるでしょうし,グローバルな問題も起こるでしょう。しかし,Linuxは今後も急拡大すると我々は考えています。

---GPL バージョン3についてはどうごらんになっていますか。

 GPLについては,プロセスと内容に分けて考えたいと思います。

 GPL バージョン2は過去15年間にわたって大きな成功を収めてきました。オープンなプロセス,コミッティの取り組み,ドラフト(草案),こういったものによって,GPLはさらによいものになってくると思います。しかし,これらのプロセスが正しく行わなければ支持は得られません。我々,そしてメンバー企業は,GPLバージョン3の春のドラフト,秋のドラフトによってこういったニーズに対応することを期待します。

---OSDLが唱えるBridges to Communitiesとはどういう意味ですか。

 特に日本のメンバー企業にとって,日本と世界の開発者コミュニティとの橋渡しをすることが重要です。NEC,富士通,日立製作所といった日本のメンバー企業と協力し,カリキュラム,教育ファンド,シンポジウム,テクニカル・アドバイザリー・ボードなどの活動を通して日本のオープンソース開発者を増やしたいと考えています。

---今のOSDLの活動はLinux中心です。名前にOpen Sourceとあるように,Linux以外に活動を拡大していく考えはありますか。

 答えはイエスです。例えば我々はSambaの主要開発者であるAndrew Tridgellをフェローに迎え,Samba4の開発にも投資しました。彼はIBM Australiaを休職してフェローとなり,現在,彼は休職期間を終えIBMに復帰しています。

 ただし,LinuxがUNIXよりインストールベースが増えたといえ,中小企業や政府機関などにさらに普及させるためには,やるべきことはまだまだあります。要はバランスです。