上場企業の内部統制整備にかかわる「実施基準」の確定・公表の時期が従来の予定より遅れることが、6月6日に明らかになった。実施基準については現在、金融庁の企業会計審議会内部統制部会が策定作業を進めている。複数の部会関係者によると、実施基準の確定は早くても今年9月ごろ、遅ければ12月ごろになる模様だ。7月ごろに「公開草案」を公表し、広くパブリックコメントを募ったうえで、年内に最終版を確定する可能性もある。

 上場企業のなかには、実務上不可欠な内容が含まれる実施基準の公表を待ってから、具体的な内部統制整備作業を進めようとしていたところも多い。「実施基準公表後に、対応した新製品や新サービスを発表する」としているIT(情報技術)ベンダーやコンサルティング会社も多く、公表時期のずれは多方面に影響を与えそうだ。

「実施基準」草案は200ページ、数値も含め詳細な基準を示す方向

 今週にも国会で成立が見込まれる「金融商品取引法」は、いわゆる「日本版SOX法」の中核に当たり、財務報告にかかわる内部統制(財務諸表の数字に誤りがないことを保証するための社内体制・業務プロセス)の整備・評価を義務付ける内容。これまで、法案成立から間もない時期に「実施基準」が公表されるとみられてきた。

 実施基準では、「全社の売上高(利益)の何パーセントを構成する部門・業務プロセスを内部統制の整備・評価対象にすべきか」「業務プロセスを『文書化』するための図表をどのような様式で作成すればよいか」「情報システムの運用管理についてどのような体制が求められるか」など、数値基準も含めて、内部統制の実務的・具体的な指針を規定する方向で検討が進められている。

 内部統制部会内部では既に200ページに上る実施基準の草案ができているが、分量が膨大なため、全体の統一性・整合性の確保に時間をかけている。IT分野などの内部統制については、草案段階では専門用語が多いため、平易な表現に書き直す作業も進めている。米国で内部統制にかかわる規制緩和の動きがあるなど、外部環境の変化も内部統制部会の作業スケジュールに影響を与えているという。

【解説】「実施基準」---内部統制制度3点セットの1つ、実務的な指針を示す

  上場企業の財務報告にかかわる内部統制整備の義務は、主に「金融商品取引法」「基準案」「実施基準」の3つで規定される。これらは、米国で「エンロン事件」を機に上場企業の財務報告に対する規制を強化した「サーベンス・オクスレー法(SOX法、企業改革法)」になぞらえて、「日本版SOX法」「J-SOX」と呼ばれることもある。

 実施基準は、上場企業が実際に内部統制整備・評価のための作業を推進するうえでの実務的な指針に当たるため、企業がその策定の行方に注目している。

 3つのうち、今週にも国会で成立が見込まれる金融商品取引法は、証券取引法を再編した法律。同法は、金融派生商品や投資ファンドなどに対する規制を強化する法律として知られる。同法はこのほかに、上場企業に「内部統制」を整備し、内部統制の評価結果を「内部統制報告書」として提出することを義務付けている。この虚偽記載に対する罰則も定めている。

 さらに、金融商品取引法が規定する内部統制のあり方を示すものとして、金融庁の企業会計審議会内部統制部会が2005年12月に「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案」を公表している。ただし、この基準案は基本的な枠組みを示しているが、実務上はより具体的で詳細な指針が必要になるため、内部統制部会は「実施基準」の検討を進めている。