総合企画部マーケティング室マーケティンググループの岩崎浩マネジャー
総合企画部マーケティング室マーケティンググループの岩崎浩マネジャー
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5月23日に発売した「スイーツプラス」。「誰かと『一緒』に楽しむ」商品として打ち出す
5月23日に発売した「スイーツプラス」。「誰かと『一緒』に楽しむ」商品として打ち出す
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各店舗で実践された「ホスピタリティ」の実例はイントラネットなどで共有し、毎週情報を更新する
各店舗で実践された「ホスピタリティ」の実例はイントラネットなどで共有し、毎週情報を更新する
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 ファミリーマートが5月23日に発売したチルドデザートと半生菓子の新シリーズ「Sweets+(スイーツプラス)」は、コンビニでデザートを買う頻度が低い30代女性をターゲットにしている。味や食感へのこだわりに加え、持ち帰り用に専用のクラフトバッグを提供するのが特徴だ。コンビニのレジ袋ではなく、専門店のようなバッグに入れることで、友人や家族への手土産としての需要を喚起する。発売早々にテレビや雑誌などで取り上げられるなど注目を集めている。

 実はこの商品は、ファミリーマートが2005年春から取り組んでいるブランド確立運動、別名「らしさ運動」の成果の一つ。「ホスピタリティ(おもてなし)あふれる行動を通して、『気軽に心の豊かさ』を提案する」というコアバリューの実現のため、全社横断的な業務改善に取り組んでいる。

 既存店の売り上げが21カ月連続で減少するなど、流通の優等生だったコンビニ業界も曲がり角に差し掛かっている。オーバーストア問題や、スーパーの営業時間延長との競合など、課題は山積みだが、ファミリーマートで問題視されたのは、自社のブランドイメージが希薄なことだった。

 2004年に消費者への意識調査を実施した結果、業界トップのセブン-イレブン・ジャパンが「信頼、安心」、生鮮コンビニなど新業態を次々と繰り出すローソンが「革新、挑戦」といったイメージを確立しているのに対し、ファミリーマートには大多数の顧客が一致して挙げるような確たるイメージがなかった。

 相対的に多く挙げられたのが「親しみやすい」というイメージだった。「そこでこの価値を再認識し、全社のブランドに昇華させて打ち出しくために、社長直轄の全社プロジェクトとしてブランド確立運動をスタートさせた」とプロジェクトの事務局を務めた総合企画部マーケティング室マーケティンググループの岩崎浩マネジャーは話す。

コンビニなのに「おもてなし」

 このために組織されたのが全本部ら60人のメンバーを集めた「らしさプロジェクト」だった。顧客と直接対面しない経理など後方部門のスタッフも参加し、「ファミリーマートらしさとは何か」「それを各部門の業務で実現するには何をしたらよいか」について話し合った。

 「親しみやすい」というイメージをより高めるため、核となったコンセプトが「ホスピタリティ」だった。もてなしや心遣いを指し、ホテルや外食などのサービス業では重視されてきたが、流通業、特に利便性を追求してきたコンビニとは縁が薄い。「『コンビニなのにここまで』と言われるおもてなしを実現するために、接客はもとより、商品開発や物流などあらゆる業務でホスピタリティを打ち出すことにした」(岩崎マネジャー)

 プロジェクトのメンバーが自分の担当部門に帰り、それぞれの業務で「ホスピタリティ」を打ち出すための施策を考える。つまりブランド確立運動は、全社的な業務改善にもつながっていく。毎週1日を「らしさプロジェクトの活動に充て、メンバーは通常業務に優先して取り組む。

 この結果、2005年中には約100のアイデアが生まれ、経営陣の前で各部門の責任者がアイデアを発表してその実現をコミットした。例えば商品本部では、「自分だけでなく周囲の誰かを喜ばせる」「手軽に本格感を味わえる」といった8つのコンセプトを打ち出した。ギフトとして通用する「スイーツプラス」や、高級ワインと組み合わせて食べられる「本格パスタ三ツ星パスタ」などはこれらのコンセプトをベースとして開発された。「三ツ星パスタ」はパスタ部門の売り上げを3割上乗せするヒット商品になった。

 営業部門では、店舗に対して接客でのおもてなしや地域との交流を促進するような提案を実践。住宅街の店舗では子供用の小さなかごを設置するなどのサービスを考案した。また社内のイントラネットに「社員が感じたホスピタリティ体験」などの掲載コーナーを設け、情報交換にも役立てている。

 また、「らしさプロジェクト」内に設置した「具現化委員会」では、ファミリーマートの世界観を対外的にアピールするために、一貫性と継続性を持ったコミュニケーション手法を開発した。ブランドイメージを視覚的に表現する「ムードボード」を作成し、「ファミマらしい」色や表現を定義した。これをテレビコマーシャルや加盟店募集、取引先への案内などの販促物にも適用することで、従来部門ごとに独自に企画されていた販促物の表現に統一性を持たせ、ファミリーマートのイメージにブレを生じさせないようにする。

行動指針にも盛り込む

 プロジェクト内には「理解浸透分科会」を設置し、ファミリーマートの企業風土の見直しを行ってきた。この結果を基に行動指針を設定し、創業25周年を迎える2006年9月をメドに、本社社員や加盟店オーナー、アルバイト社員などに浸透させていく狙いだ。「らしさ活動を通じて、従来培ってきた文化、風土の中で、捨て去るべきものと残すべきもの、さらに今後付加すべきものが見えてきた。これを行動指針という形で明確に定義し、アルバイトの社員に至るまで、自分がどう行動すべきかの気付きを与えたい」と岩崎マネージャーは語る。

 今後はプロジェクト活動の浸透と活性化を狙い、部門ごとの課題設定だけでなく、「いつまでに誰が実現するか」を明記した具体的なアクションプランを作成して全社に対してコミットする体制をとる。各部門の課題も全社公開し、進ちょくの遅れをけん制し合えるようにする。