カシオ計算機は、電子辞書事業で大きな成果を上げた在庫削減活動を他事業へ横展開していく。

 同社は2003年から2005年にかけて、電子辞書事業で在庫削減活動に取り組んだ。期末の全社棚卸資産残高を月次平均の売上原価で割った「棚卸資産回転月数」は、2003年3月期に2.7、2004年3月期に2.0、2005年3月期に1.9、2006年3月期に1.7まで減った。

 しかし、実は同社は2003年までは在庫減らしに苦戦していた。2000年3月期から2002年3月期にかけて棚卸資産回転月数は3.2~3.4と高止まりしていた。同時期に進めた需要予測と計画立案パッケージを導入するITありきの改革が不調に終わったためだ。

 そこで同社は2003年から、活動方針を全面的に見直して業務改革をベースとした在庫削減活動に取り組んだ。まずは2003年から電子辞書事業で取り組むこととし、主な業務の見直しを、(1)設計部門における部品共通化、(2)調達先の絞り込みとメーカーとの関係強化による供給の安定化、(3)生産部門における計画サイクルの短縮、(4)生産部門と営業担当者のコミュニケーション強化による安全在庫の削減---の4分野で進めた。

 まず、電子辞書の20以上あるモデル間の部品共通化を進めた。共通化を進めることで、調達量が平準化して特定モデルごとの需要予測の精度を高める必要がなくなった。例えば、プリント基板は3~5モデルに1枚、マイクロプロセッサは10モデル以上で1つの部品を共用している。モデルごとに最適な仕様にして、できるだけ安い部品を使うという部分最適を改め、国内外で20以上あるモデルを大きく数グループに分けて、グループ内で上位品質の部品に片寄せすることで部品を減らした。

 こうして調達部品数を2003年3月期から2006年3月期にかけて約50%削減。個別部品の調達量が大きくなったことでコストも抑えられたという。

 さらに、部品ごとの調達先を絞り込んだ。1部品当たりの調達先は2社までに抑えるという原則で見直しを進め、2003年当時600社あった調達先を2005年には3割程度減らした。

 また、生産部門側では、計画立案サイクルを2004年12月に隔週から週次に短縮することで、より市場の動きを反映した生産・調達計画を策定する体制に変えた。この短縮に当たっては、1回当たりの計算時間が数十分以内で済む生産・調達計画ツールを新たに導入。そして、まずは生産側の改革を進めながら営業部門の信頼を得て、完成品の安全在庫も徐々に減らすことができた。

 こうした一連の活動を通じて、電子辞書事業単体での棚卸在庫量は「2003年から2005年にかけて1カ月分以上減った。電子辞書事業の在庫は全社からみるとシェアは小さいが、ここ2年の全社指標が2.0から1.7まで減ったのに大きく貢献している」(村上文庸・常務開発本部長)という。

 売上高ベースでは、同社における電子辞書の比率は5%程度。今後は電子辞書で培った在庫削減のノウハウを、売上高シェアが12%あって品目数が多い腕時計や、事業規模は小さいものの電子ピアノといった大型製品を扱う電子楽器へ展開していく。

 今後の具体的な棚卸資産回転月数の改善目標は明らかにしていないが、腕時計は今後2年間をメドに取り組む予定で、2008年3月期には棚卸資産回転月数が1.7から、さらに1割以上減っていく可能性がありそうだ。