首都ソウル特別市江南区のある家庭。自宅のパソコンを使って日常的に電子申請を使っているという
首都ソウル特別市江南区のある家庭。自宅のパソコンを使って日常的に電子申請を使っているという
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地方都市サムチョク市でも、電子申請を使う市民は少なくない。電子納税も普及しており、銀行のATMでも納税できる
地方都市サムチョク市でも、電子申請を使う市民は少なくない。電子納税も普及しており、銀行のATMでも納税できる
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 日経パソコンと日経BPガバメントテクノロジーは2006年5月26日、自治体職員を対象とした行政情報化に関するセミナー「第8回 全国電子自治体会議」を都内で開催した。午後の主催者講演の中で、日経パソコン編集部が、韓国の行政情報化の最新事情を報告した。概要は、以下の通り。

 まず最初に、韓国における電子政府のバックグラウンドを紹介。日本との差異として、強力な権限を持つ大統領が電子政府を積極的に推進してきた。韓国の場合、政府機関として22の省庁(部や処と呼ばれる)があり、都道府県に相当する広域自治体は16、基礎自治体と呼ぶ市区町村相当の自治体が234ある。日本の総務省に相当する行政自治部が中心になり、産業面で情報通信部(日本の経済産業省に相当)のバックアップを受けながら、トップダウンで自治体の電子化を推進している。情報通信部は、「8-3-9戦略」に基づき、8つのサービス、3つのインフラ、9つの製品を積極的に開発するよう産業界に働きかけている。例えば、無線ブロードバンドやデジタルテレビ放送、IPv6、ホームネットワークなどの技術が含まれる。

 次に、事例の一つとして首都圏の都市部の現状を報告した。首都であるソウル特別市にある江南(カンナン)区は、韓国では電子化で最先端を走る自治体である。人口は約54万人、面積は約40平方キロメートル。イメージとしては、東京都23区のうちの一つに近い。ここでは、電子申請が日常的に使われている。市民は、パソコンや携帯電話、街中にあるキオスク端末のいずれかを使って、住民票や土地台帳、健康診断の結果などを区に申請し、結果を受け取っている。特筆すべきことは、パソコンや携帯電話で申請した場合、自宅にあるプリンターやコンビニエンスストアなどにあるプリンターで申請書類を自分で印刷できること。偽造やなりすましを防ぐ仕組みを取り入れることで、公文書を市民自身の手で印刷できるようにした。結果として電子申請できるメニューの場合、全申請数の約50%を電子申請が占めるという。

 さらに、地方の事例を紹介。地方都市でも、自治体の電子化は都市部に比べて極端に遅れているわけではない。取り上げたのは、ソウル特別市から高速バスで約4時間ほどの距離にある海辺の街、サムチョク市。人口約7万5000人、面積は1186平方キロメートル。人口減に悩む典型的な地方都市の一つである。ここでも、電子申請は市民によって日常的に利用されている。江南区と同じように、パソコンや携帯電話、キオスク端末を用いて、各種メニューを電子申請できる。また、税金についても電子的に納めることも珍しくはない。市の税金システムとオンラインバンキングを直結し、自宅のパソコンや携帯電話を使って市役所に足を運ぶことなく納税できる。ITが苦手な市民のために、銀行のATMでも納税が可能な体制を敷いている。

 電子申請や電子納税が普及している韓国。その原動力の一つに、「インセンティブ」の提供があると最後にふれた。各自治体では、電子申請・納税すると窓口で支払うより手数料を割り引いたり、抽選で賞品をプレゼントしたりする仕組みなどを取り入れている。