写真1:東大の中原淳助教授
写真1:東大の中原淳助教授
[画像のクリックで拡大表示]
写真2:MITのスタジオ教室(イメージ)
写真2:MITのスタジオ教室(イメージ)
[画像のクリックで拡大表示]
写真3:NHKアーカイブスを使った授業の概要
写真3:NHKアーカイブスを使った授業の概要
[画像のクリックで拡大表示]
写真4:米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO
写真4:米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO
[画像のクリックで拡大表示]

 東京大学は5月24日,マイクロソフトなどが開催した大学におけるIT活用を議論する「大学CIOフォーラム」で,ITを活用した教育システムの現状について紹介した。東大とマイクロソフトは「マイクロソフト先進教育環境寄附研究部門(MEET:Microsoft chair of Educational Environment and Technology)」を設置して,この5月からITを活用した次世代教育環境を研究している。

 MEETの概要について説明したのは,東大の中原淳助教授(写真1)。東大では2005年7月から「教育環境リデザインプロジェクト(TREEプロジェクト)」という,IT活用の教育プロジェクトを推進している。MEETはTREEプロジェクトの一部である。ほかにも,東大の講義資料をWebで無償公開する「UT Open Course Ware」,大学院生の基礎学力向上を狙った「TODAI TV」---といった取り組みを進めている。

 MEET(Webサイト)では,より教育効率の高い教室環境を開発する研究をしている。中原氏は「大教室で行われる講義に関しては,『後から講義のあらすじを思い出せる学生は2%,キーワードだけなら思い出せる学生は29%』という研究結果もある。つまり残りの70%の学生は,大教室での講義を全く記憶していない。『一斉講義とはすべて忘れられる運命にある』と述べる研究者もいる」と指摘する。「人間はただ聞いただけでは学習にならない。自分で問題を選び,話し合い,他人に伝えなければ,学習内容は定着しない」(中原氏)のだという。

 この問題に関して,マサチューセッツ工科大学では米Microsoftと協力して「スタジオ教室」(写真2)という,グループ学習が中心の大人数教室を開発したという。スタジオ教室では,学生はグループごとに円卓に着いている。ここでの初級物理学の講義では,いわゆる座学の講義は最初の15分だけだという。その後は,学生がペアで実験を行い,その結果をグループで討議し,全体に対して結果を発表する。講義の最後には,携帯端末を使って,講義の内容に関するテストを実施する。講師はこのテストによって,講義の成果をリアルタイムで確認できる。

 東大も,新教育棟の「福武ホール」にスタジオ教室を設ける予定だ。このほか,「タブレットPC」を学生に配布して教育に活用する。活用の一例が,NHKの「NHKアーカイブス」に保存されている134万2000項目のニュースや48万4000の番組を,タブレットPCで学生が閲覧できるようにする「NHKアーカイブスを高等教育の場で利用するためのソフトウエア(映像ビューア)の開発」や「NHKアーカイブスを高等教育の場で利用するための授業モデルの検証」(いずれも2008年3月までのプロジェクト)だ(写真3)。学生や教師の興味や関心に応じて,学習に役立つ映像を容易に検索できるソフトウエアの開発なども検討している。

 MEETに関しては,東大とマイクロソフトが6月14日にシンポジウムを開催して,情報を公開するという(シンポジウムのWebサイト)。

 UT Open CourseWare(Webサイト)は,米マサチューセッツ工科大学で始まった,大学の講義内容をWebで無償公開する「Open CourseWare」の東大版。講義ノートやビデオなどの講義資料が公開されている。「上野千鶴子教授の『ジェンダー論』や小柴昌俊名誉教授の『ニュートリノ』,佐藤勝彦教授の『ビッグバン理論』,藤本隆宏教授の『ものづくり経営』など,東大でしか聞けない講義を積極的に公開している。講義の配信は極めて好評で,閲覧数が多すぎて『東大のネットワーク資源を使い果たす気か?』と怒られるほど」(中原氏)という。UT Open CourseWareの利用者は「働いている人や育児中の女性,高齢者はもちろん,意外と高校生も多い」(同)という。

 「TODAI TV」では,大学生の基礎学力向上を目的として,自学自習できるWeb教材を公開する。東京大学の大学院には,留学生や社会人大学院生も数多く在籍しており,彼らに対する自学自習の仕組みの提供が課題になっているので,このような取り組みをするのだという。

 24日の大学CIOフォーラムの冒頭では,米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOが講演し,Microsoftが教育分野における支援活動を実施している理由などについて説明した(写真4)。バルマー氏は「われわれは,インフォメーション・ワーカー向けの製品を開発している企業である。そして大学には,世の中でも最も多くの情報を扱う人たちが集まっている。大学の講師や学生にわれわれの製品を使ってもらってフィードバックを得ることは,特に重要である。東京大学には,テクノロジーがティーチングをどう変えられるのか,検討してもらっている」と語った。