手作業で組み立てられるコペン
手作業で組み立てられるコペン
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 2万台売れればいいと思っていたら、この3月末には累計が約3万7000台に到達。このペースでいけば、この夏にも当初予定の2倍の4万台を突破する勢いのスポーツカーがある。ダイハツ工業が2002年6月に発売した「コペン」だ。2006年3月期、連結売上高と営業利益がともに過去最高を更新したダイハツの業績に、コペンも少なからず貢献した。

 コペンは発売から約4年が経過し、最近は話題に上る機会もほとんどない。通常なら、静かに市場から消えていくところだ。しかし意外なことに、今年に入って逆に、月間の販売台数が昨年の同月より数百台ほど多い1000台近くまで回復するなど、根強い人気を保ち続けている。

 ダイハツ自身、コペンがこれほど長く売れ続けるとは思っていなかったようだ。当初の販売計画は2万台で、発売から2年ほどで寿命が来ると思っていた。実績を見ても、発売から半年後にピークの月産約1400台までいったが、その後は急激に販売が落ちていくと予想していた。

 短命で、生産台数が限られ、需要の波が大きく、それでも高品質を求められるスポーツカー。ダイハツはモデルライフが極めて短いコペンに大きな設備投資をかけられないが、一方で高い生産技術を要求された。

 こうした難しい条件のなかで、コペンを効率よく生産するにはどうすればよいか。ダイハツが選択したのは、従来のコンベヤー生産を排した、人手による自動車生産だった。熟練工が1台1台、手作業でコペンを組み立てる。結果的に、設備投資は従来のコンベヤー生産と比較して4分の1程度で済んだ。

 発売当初、コペンが注目されたのは、電動オープンルーフを備えたスポーツカーとしては破格の約150万円の値付けとともに、「エキスパートセンター」と呼ぶコペン専用の手作り自動車工房を用意したことだった。エキスパートセンターがある本社(池田)工場の松川幸夫部長は「コペンは工場そのものが商品の一部」というほどだ。顧客の中には、自分が注文したコペンが組み立てられる過程を見たくて、池田工場まで見学に来た人までいる。手作り生産のコペンだからできる顧客との密な関係作りの一例だ。

 ダイハツと親会社のトヨタ自動車の生産ノウハウが詰まったエキスパートセンターは、現在も進化を続けている。通常よりも長めに設定された作業員1人当たりの作業時間(タクトタイム)を毎月の販売台数に合わせて調整しながら、需要の波に合った効率的な手作り生産を実施している。

 作業員が統一された一定の作業時間に従って車のボディにエンジンやドア、タイヤなどの部品を手で取り付けたり、組み立て途中のコペンを手押しで工程間を移動させる様は、大規模な自動車生産と明らかに異なっている。こうした異色の生産方式が現場のコスト削減に寄与し、コペンの思わぬ長寿を下支えしている。