写真:野村総合研究所の此本臣吾執行役員
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 「2002年にSOX法を施行した米国では,SOX法対応にコストがかかり過ぎることが問題視されており,法律の対象から中堅企業を外す議論も起きている」−−−。野村総合研究所(NRI)の此本臣吾執行役員(写真)は5月23日,「Microsoft Management Summit 2006 Japan」で「企業における内部統制基盤整備の進むべき方向」と題する講演を行い,米国における最新動向などを紹介した。

 日本でも現在,内部統制に関する法律の制定や施行が進んでいる。1つは5月1日に施行された「新会社法」であり,もう1つは2008年3月の施行が予定されている「金融商品取引法」(日本版SOX法)である。此本氏は,「新会社法は,内部統制に関する方針を取締役会で決議することを求めた法律。一方の日本版SOX法は,投資家の保護を目的とした法律である。新会社法はある意味方針を決めるだけなので,やらなければならないことがSOX法とはかなり異なる。また日本版SOX法に関しては,2002年7月にSOX法を施行した米国での事例を見ると,対応するためにはかなりのコストがかかることが分かってきた」とまとめる。

 米国ではまず2004年から,株式時価総額が750万ドル以上の大企業を対象に,SOX法の本番稼働を開始した。それ以外の上場企業に関しては,当初は2005年4月から制度の対象とする予定だったが,実施は3回延期されており,2006年7月15日以降の決算期から本番稼働が始まることになった。

 延期されている理由はコストである。SOX法に対応した体制を作るためには,かなりのコストがかかることが明らかになった。NRIの調査によれば,大企業217社においてSOX法に対応するためにかかった平均コストは430万ドルになるという。またNRIでは米国の市場に上場している日本企業にヒアリングを行ったが「大企業の場合で1年間に10億~20億円のコストがかかっている」(此本氏)という。

 此本氏は「コストがふくらむ要因の1つが,SOX法対策が『ボトムアップ型』で決められていること」と語る。SOX法対策は監査人主導で決められているが,「監査人は問題が起きたら責任が自分のところに降りかかるので,あらゆるリスクを考慮しようとする。そのため監査人主導になると,何でもないプロセスまで変更すべき対象になってしまい,重要業務の絞り込みがほとんどされなくなってしまう」(此本氏)。

 2006年4月23日には,米国SEC(証券取引監査委員会)の「中堅公開企業に関する諮問委員会」による最新報告がまとめられ,米国におけるSOX法の問題点が洗い出された。その報告によれば,SOX法対応後は監査費用が3~4割上昇することが分かったという。一般に監査費用は,企業の規模に応じて高くなるというよりは,ある程度固定的な費用になっている。そのため監査費用の増大は,規模が小さい企業ほど負担が大きくなる。

 「米国では,『スモール・マイクロキャップ企業』,つまり売上高が7億8700万ドル以下の企業であれば,SOX法の適用を免除してはどうかという議論になっている。上場企業に占めるスモール・マイクロキャップ企業の割合は8割程度であり,かなりの数の上場企業を対象外とする考え方だ。しかし,時価総額で見るとスモール・マイクロキャップ企業の占める割合は6%ぐらいになるので,投資家保護の観点で見ると目的が達成される,という主張が展開されているようだ」(此本氏)。

 日本版SOX法の実施基準は近日公開される予定だが,米国のSOX法に似通ったものになると見られている。此本氏は,「米国の動向に関しては,今後もウォッチが欠かせない」と語っている。