総務省は5月22日,高速電力線通信(PLC)の実用化に際する技術基準などを検討する「高速電力線搬送通信設備小委員会」の第4回会合を開催した。この席で,主任を務める東北大学電気通信研究所の杉浦行教授から規制値を従来より強化する提案がなされた。

 同委員会では,大阪大学大学院基礎工学研究科の北川勝浩教授の指摘を受けるなどして,5月中旬に実証実験を実施した(関連記事)。実験場所は,鉄筋コンクリートの高層住宅,研究地域内の鉄骨木造住宅,住宅地内の木造住宅の3カ所。このうち,研究地域内の住宅は,広大な施設内にある無線LANなどの実験用設備。住居としては使用しておらず,電気製品も利用していない。田園環境を想定している。3番目の木造住宅は,実際に住居として利用されている築約40年の「懐かしい感じのする昔風の家屋」(杉浦座長)。典型的な住宅環境を想定している。

 実験では,同委員会が許容値案としていた電源線端子のコモン・モード電流の準尖頭値30dBμA(2M~30MHz,通信状態)を満たすモデムを利用して実際に通信を行い,住宅の周囲へ漏えいする電磁波の強度を測定した。その結果,鉄筋の高層住宅から漏えいする電磁波は周辺の環境雑音以下だったものの,残る2棟では15MHz以上の周波数で漏えい電磁波が環境雑音を越えた。この結果を受け,杉浦座長は15~30MHzの許容値を20dBμAに下げることを提案した(15MHz以下は30dBμAに据え置き)。

 この提案に対して,メーカー側委員からは「木造住宅での実験時には,実測で約20Mビット/秒の速度が出ていた。だが,新たな規制値を採用すると10分の1の2Mビット/秒と無線LAN以下になってしまう」(パナソニック コミュニケーションズ)との不満の声も出た。S/N(信号対雑音)性能の向上など,技術的な改良で速度の低下を抑えることは可能とみられるが,今秋にも当初予定されていた製品登場は来年以降にズレ込む可能性も出てきた。

 今回の規制強化の背景は,漏えいする電磁波を環境雑音レベル並以下にすることだ。だが,「実証実験を行ったのは昼間。昼間と深夜では環境雑音に10dB近い差がある」(日本アマチュア無線連盟),「航空管制官は環境雑音より6dB低いレベルの雑音が発生してもノイズが増えたと感じるとの実験結果が出た」(国土交通省)などと,より低い規制値を求める発言もあった。

 今後,今回の改定案に対する賛成,反対の双方の意見を座長が集約。次回会合(開催日未定)で最終決定を行う予定だ。