米Hewlett-Packard戦略技術オフィス チーフ・サイエンティスト兼フェローのGreg Astfalk氏
米Hewlett-Packard戦略技術オフィス チーフ・サイエンティスト兼フェローのGreg Astfalk氏
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 仮想化の盛り上がりとともに,グリッド・コンピューティングが企業で注目を集めている。5月11日から東京国際フォーラムで開催中のGrid World 2006で講演するために来日した米Hewlett-Packard戦略技術オフィス チーフ・サイエンティスト兼フェローのGreg Astfalk氏に,企業におけるグリッドの利用について話を聞いた。

---グリッドというとHPC(High Performance Computing)分野向けの技術という認識を多くの人が持っている。

 グリッドがHPC分野で始まったのは事実だが,今や企業の基幹系・情報系システムでも非常に有用な技術になっている。パイプライン処理や並列処理など,HPC分野で培われた技術が後に企業のシステムで普通に使われるようになるケースは多い。グリッドもその一つになるだろう。

 グリッドは広い意味での仮想化技術の一つだ。仮想化の本質は,ユーザーに物理的なリソースではなく,論理的なリソースを提供することにあり,仮想マシン・ソフトとは独立した概念だ。グリッドでも各種のリソースを仮想化できるが,その際にXenやVMwareなどの仮想マシン・ソフトは必要ない。

 仮想化,グリッド,SOA,ユーティリティ・コンピューティング---。これら4つの技術は互いに深く関連している。同じ“分野”の技術と言ってもよいだろう。

---企業でグリッドを導入するメリットは?

 1つはリソースの使用効率が向上することだ。当社の調査によれば,多くのデータ・センターにおけるサーバーの使用率(平均的な負荷)は15%程度にとどまっている。ストレージ・アレイの使用率も同程度だ。しかし,だからといってサーバーの数を減らして使用率を上げるのは,現実的には難しい。グリッドであれば,突発的な負荷の上昇などに備えつつ,使用率を向上させることができる。

 2つ目は運用管理コストを削減できることだ。現在,運用管理コストは企業のIT関連コストのかなりの部分を占めている。グリッドを導入し,監視・管理を自動化すればこのコストを減らすことができる。自動化によって人的エラーを減らせるのもメリットだ。

 このほか,Adaptability/Agility(適応性/機敏さ)が向上する点にも注目してほしい。グリッドを導入すれば,売り上げの増加によってサーバーへの負荷が高まるなどした場合でも,各種ケーブルの接続を変更するといった手作業は必要ない。設定を変えるだけで対応できるようになる。

---グリッドのメリットを生かすには,アプリケーションの変更が必要なのではないか。HPC分野では,コンパイラにループを並列化するよう指示したり,特別なライブラリを使用したりといった作業が必要になる。

 HPCでは,計算が終了するまでの時間を短縮することが最大の目的であるのが普通だ。対して企業の情報システムでは,同時に処理できるトランザクションを増やすことが重要で,一つひとつのトランザクションに要する時間を短縮することにはこだわらない場合も多い。実際に変更が必要かどうかはアプリケーション次第だが,Webサーバーのようなソフトウエアならそのままでもグリッドのメリットを十分生かせるはずだ。

---HPのグリッドに対する今後の製品戦略は?

 現在「Next Generation Data Center」と呼んでいる,グリッドに対応した製品群を出す予定だ。サーバー製品から管理ツールまで,ハードウエアとソフトウエアの両方を含む数多くの製品で構成するものとなる。現時点では詳しいことは話せないが,今後の発表に注目してほしい。