「財務諸表をいくら調べても、それを作成する過程でどんな不正があったかかはわからない。パソコンやサーバーを調べて初めてわかることが多い」と、KPMG FASの小川真人取締役は指摘する。さらに、「不正を働いた者が、システムからその痕跡を完全に消し去ることは難しい」と続ける。

 KPMG FASは、内部不正調査サービスを提供する、日本では数少ないベンダーだ。警察や検察が使っているような専用ツールを利用してハードディスクの情報を復元したり、ログを分析したりすることで、不正の証拠を探し出す。小川氏は、「パソコンに残るキャッシュからサーバーやネットワーク機器のログまでを、矛盾なく改ざん・消去するのは不可能に近い。そして、調査用ツールの精度は非常に高い」と語る。

 何か問題が発生して警察などに被害届を出しても、状況によっては捜査に乗り出してもらえない。さらに捜査までいった場合には、そうした事実が企業のイメージ・ダウンにつながる。そこでKPMG FASは、不正を働いたと思われる当事者にその証拠を突きつけ、自白に持ち込むといったサービスも手掛ける。小川氏によると、「当事者は、こちらがまさかそのような証拠を見つけることができるとは思っていないため、それを突きつけたとたん、弱気になり、自白に至るケースが多い」のだという。企業が内部的に解決できれば、企業のダメージを最小限に抑えることができる。

 ただ、「専門のツールを使えばいいというものでもない」とクギを刺す。「不正を見つけ出すには、ノウハウが必要だ」(小川氏)。例えば、不正な支出があり、当事者による経理システムの操作履歴は調べることができても、それだけでは真相が分からない。その当事者がほかにどのようなデータを登録しているか、不正な操作をする前後に不審な行動はしていないか、といった視点を持って調査しなければ、不正の全容まで明らかにすることができない。