渡辺隆氏
渡辺隆氏
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 日本アイ・ビー・エム(IBM)は、ソフト開発基盤EclipseやデータベースApache Derbyなどオープンソース・ソフトウェア(OSS)に積極的に取り組んでいる。いずれも自社のコードをオープン化したものである。Linuxについても米IBMではLinux Technology Centerを設立し、600人規模の技術者を投入してその機能向上に貢献するなどIBMとOSSの関わりは深い。

 日本IBMでソフトウェア事業Rational事業部Rationalブランドマネージャーを務める渡辺隆氏にOSSと商用ソフトの関係を聞いた。

――OSSの普及をどのようにご覧になっていますか。

 OSSの適用領域はオペレーティング・システム、Webサーバーなどから始まり、2年くらい前からは一気に開発ツールにまで広まってきました。さらには、ERP(企業統合ソフト)パッケージやCRM(顧客関係管理)ソフトまでOSSが出てきました。この流れは止められないでしょう。

――一方で、「OSSは難しい」といったネガティブな声が最近は聞こえてきます。

 それは、OSSの波が止まったのではなく、OSSを使う人の底辺が広がってきたからだと思います。当初はOSSはメリットだけでなく、そのリスクも理解していた人が使っていましたが、裾野が広がったことで難しいと感じる人が増えてきたのではないでしょうか。ですので、突き放した言い方のように聞こえるかもしれませんが、「使える人はどんどん使ってください」という状況になっていると思います。

――OSSが普及すると、数多くの商用ソフトを提供しているIBMとしても困るのではないでしょうか。

 ユーザーはOSSだけではうまく行かない場合もあります。このビルドで安定的に動くプラグインはどれかといった組み合わせもありますので、OSSを使えない人もたくさんいます。こうした人たちには、商用ソフトを使ってもらう価値があります。

 当社のソフト開発基盤である商用製品の「IBM Rational Software Development Platform」にとって、OSSのソフト開発基盤であるEclipseはある意味、最大の競合相手です。ですが、EclipseはもともとIBMがソースコードをオープンにしたもので、現在のRationalはEclipseを基盤にして再構築したものです。OSSを基盤として、商用ソフトが成り立っている構造です。

 このためRationalはEclipseの操作性などを踏襲するとともに、データが共通化されています。Eclipseで開発していた人は、抵抗なくRationalで作業することができます。

 このように、OSSによって商用ソフトの敷居を下げているのです。

――そのような場合、OSSと商用ソフトは共存できるのでしょうか?

 Rationalの機能すべてがEclipseで利用できるわけではありません。そこで、開発に直接携わる多数のスタッフはEclipseで開発実務を行い、開発マネージャーはRationalで開発チーム全体の進捗状況をマネジメントすると言った適材適所の使い分けができます。

 このようにOSSと商用ソフトで開発インフラを統一できるのは、前述のようにEclipseをベースにしてRationalができていることによる恩恵です。

――最後に、「Open Source Revolution!」で5月15日に講演していただきますが、何に期待したらよいでしょうか。

 OSSの開発はベンダーの中だけでなく、コミュニティが推進してくれます。そのフィードバックを受けて、ベンダーの商用ソフトがさらに成長していくといったエコシステムができあがってきました。こうしたエコシステムの好循環を利用しつつ、OSS、商用ソフトの適材適所を見極めるためのヒントを見つけていただければと思います。