11月11日,5万9800円---。PS3の発売時期と価格が明らかになった。発表会から一夜明けた2006年5月9日に米国サンタモニカのホテルで,ソニー・コンピュータエンタテインメントの代表取締役社長兼グループCEOの久多良木健氏に,現在の心境を余すところなく語ってもらった(聞き手は浅見 直樹=ITpro発行人,枝 洋樹=日経エレクトロニクス副編集長)



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---ハードウエアが大きく進化したのに対して,ソフトウエアの開発が遅れているのではないかとの指摘がありますが。

久多良木氏:プラットフォームを一新したときは,一般にハードウエアの成長路線に対してソフトウエアが成熟していないことはよくある。ただ今回は,過去に異例なほど,ソフトウエア技術がキャッチアップしている。僕はゲーム業界に20年近くいるけれど,新たなプラットフォームの発売半年前に,ここまでプレイアブル(操作可能)なソフトウエアがそろっていたことはない。

 1994年12月に最初の「プレイステーション」を発売したときは,1カ月前でも,リッジレーサーのクルマが(背景なしで)空を飛んでいたような状況だった。ハードウエアがあってもソフトウエアがない状況は,翌年の春まで続いた。「プレイステーション 2」のときも,ソフトウエアが豊富になるのには時間がかかった。

 ところが今回は,デモとはいえ,実際にプレイアブルなタイトルがすでに10数本もある。そのどれもが発売までにもっと,もっと進化を遂げる。世の中は明らかに,ソフトウエアの開発状況をアンダーエスティメートして(少なめに見積もって)いた。今回,これほどたくさんのソフトウエアが動いているのを見て,「まさか」と驚いた人たちがたくさんいるでしょう。

■ エクスキューズはいらない

---これで「重厚長大主義」と揶揄する人の声をかき消すことができますか。

久多良木氏:いくらハードウエアを見せたところで,その重さを量ることに意味があるわけではなく,そういう批判に対抗するには,ソフトウエアの面白さで示すしかないと思っている。実際,今回,PS3用に披露されたタイトルも,ごく短時間に作られたものがたくさんあるわけで,ハードウエアの性能が高いことと,ソフトウエアの開発費が高騰することは,必ずしも相関関係がない。

 みんなは「重厚長大主義」という言葉によって,新技術に挑戦しないエクスキューズ(言い訳)にしてはいないだろうか。私には,新しいハードウエアの性能をフルに生かせるかどうか,挑戦を避けている人の発言としか受け取れない。ところが今回,各社のソフトウエアがずらりと横に並ぶ。今までは開発者同士も,ライバルがどんなタイトルをどこまでの完成度で開発しているかをまったく知らなかったが,今回各社の開発状況を互いに知るところとなった。だから,「まさか」と驚いた人は,ユーザー側ではなく,開発者側にもたくさんいたことでしょう。何となく不安に思っていた開発者のエクスキューズを,これで取り除けるのではないかと期待している。

---コンピュータの歴史を振り返れば,ハードウエアが豊かになることによって,ソフトウエアも作りやすくなる。そして市場が大きくなり,さらにハードウエアが進化するということを繰り返してきたわけですが。

久多良木氏:パソコンなんて重厚長大の最たるものの一つでしょ。でも,ソフトウエア産業が小さくなっているかといえば,そんなことはない。何万人かかっても出荷が遅れるソフトウエアがあるのも事実だが,少人数でも新たなソフトウエアを開発する事例もたくさんある。産業としては大きくなっている。PS3もコンピュータそのものなので,同じことが当てはまるはずだ。