今年4月、西村ときわ法律事務所(東京・港区)とあさひ・狛法律事務所(東京・千代田区)が統合に向けた基本合意書の締結に至った。統合が実現すれば、弁護士数が360人を超す国内最大の法律事務所が誕生する。
統合で期待されるシナジー効果の1つがIT(情報技術)活用だ。両事務所がそれぞれ築いてきたプラットフォームをベースに、業務のさらなる効率化を目指していくことになる。
西村ときわでCIO(最高情報責任者)の役割を果たす寺本振透弁護士は、弁護士事務所におけるIT活用のあり方を次のように説明する。「弁護士の仕事もCIOの役割も論理の積み重ねという点では同じ。IT活用の目的はあくまで弁護士業務の質と効率の向上です。文書作成や判例の検索、請求書の作成などが便利になるように手伝っています。最新の技術にこだわることはありません」
弁護士は数人から十数人のグループを結成して案件に対応することが多い。大きな弁護士事務所では「誰が、どんな分野に詳しいか」を整理したノウフー(Know Who)データベースを使っているかと思いがちだが、寺本弁護士は批判的だ。「優秀な人間は多忙だし、どんどん新しい分野に進出していくから入力しづらいものです。むしろ『この事件は誰が担当したのか』を蓄積するデーベースのほうがよい」と語る。
弁護士事務所のCIOは、一般的な企業のCIOとは異なり、自分自身も弁護士であることが多い。寺本弁護士の場合、主な業務分野はベンチャー・キャピタル・ファイナンスなどである。二足のわらじという忙しさはあるものの、ユーザー部門の人間がシステム設計に携われば使い勝手は向上する。さらに現場の業務を熟知しているから、必要な投資については積極的に決断できるという利点がある。
西村ときわ法律事務所では今年、事務所内図書館の蔵書約3万冊にICタグをつけた。法律事務所にとって図書館の蔵書は貴重な資料。ICタグの導入により、どの弁護士がどの蔵書を持ち出し、現在どこに置いているかが分かるようになった。蔵書の回収時には、弁護士の部屋内で“行方不明”になった蔵書も、ICタグとPDA(携帯情報端末)ですぐに見つけられるようになったという。従来は、司書が毎月1度、すべての弁護士の部屋を開けて、貸出中の蔵書を回収していた。
CIOとしての寺本弁護士は、システム・ベンダーとの付き合い方について、「ユーザーのことを真剣に考えて開発してくれる企業や担当者を見つけることが大切」と話す。