「美しい日本語」の冊子を手にする堀口睦史・主席部員
「美しい日本語」の冊子を手にする堀口睦史・主席部員
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 全日空は、この4月に長期的な業務改革を立案・推進する新会社、ANA総合研究所(東京都港区)を設立した。これを機に、2004年から開始した社内提案活動を強化して、風土改革を強力に推進する考えだ。

 同社の風土改革の柱となっている社内提案制度は「バーチャルハリウッド」と呼ぶ取り組み。2004年度から導入し、これまで延べ55の提案を生んだ。

 全日空は2003年度から2年間で300億円のコスト削減といった構造改革を実施しており、同制度を導入した当時は「社内の士気が低下していた」(事務局を運営するANA総合研究所の堀口睦史・業務部主席部員)。これを案じた山元峯生社長(当時副社長)が、現場の活性化の切り札として富士ゼロックスが実施していたバーチャルハリウッド制度に着目。同社から運営方法を学び導入した。

 バーチャルハリウッドの運営プロセスは以下のようになる。まず、社員が既存の部署が実施していない取り組みを提案。社内で賛同するメンバーを部門横断で募り、有休や時間外の時間を活用しながら計画を立案する。この後に、活動テーマに近い組織を所轄する役員に成果を提案する。例えば、新商品、新サービス、ボランティア活動の提案などだ。役員から認められれば、会社として活動支援の予算を付けたり、事業化を検討する。

 2005年度の活動から採用された提案例として、この3月に全グループ社員3万人に“美しい日本語”を啓もうする冊子を制作し配布した。さらに、5月にもクイズ形式で美しい日本語をオンラインで学習できる社内ウエブサイト構築に向けてプロジェクトを開始する。

 この活動の発案者は整備部門の社員。「日本語を美しく使おう」というテーマを掲げて、客室部門など、ほかの部門から賛同する社員を集めた。「人事部門がこうした冊子を作ると押し付けがましくなったり現場にやらされ感が出てしまいがちだが、ボトムアップの活動から生まれた冊子は配布当初から社員に好評。今後も発案者を含むグループで日本語の啓もう活動を継続していく」(堀口主席部員)という。

 変わった提案例としては、「客室で浴衣を着てサービスを行う」というものがあった。具体的な浴衣のデザインまで決定し、昨年の七夕の日にチャーター便を飛ばす案が実施寸前までいったものの、JR西日本の列車脱線事故が起きたことで「時勢的に好ましくない」と断念した経緯がある。この浴衣は機内販売された。

 このほかにも、「具体的に新サービスなどを検討中のアイデアが複数ある」(堀口主席部員)といい、同社ではボトムアップの提案を通じた風土改革に手応えを感じている。今年度は7月に応募を開始する予定。

 「最終的な役員への提案件数は、2年目も1年目と同程度あったが、単に同じ仕組みで運用するだけではアイデアが一巡し、せっかくの制度がしぼみかねない。そこで、会社の経営課題を明示してこれに対する応募を募ったり、あるいは、役員が承認した後にスムーズに活動予算を付けられるように承認時期を早めるといったことを検討している。一層の定着を図り、風土改革を推進したい」(堀口主席部員)と意気込む。