写真 4月27日に文化庁が開催した「文化審議会著作権分科会法制度問題小委員会」の第3回会合の様子
写真 4月27日に文化庁が開催した「文化審議会著作権分科会法制度問題小委員会」の第3回会合の様子
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 文化庁は4月27日,「文化審議会著作権分科会法制度問題小委員会」の第3回会合を開催した(写真)。議論の焦点は,IPマルチキャストを利用した放送サービス(電気通信役務利用放送)の著作権法上の取り扱いについてだった。

 この問題については,総務省で開催中の竹中平蔵総務大臣直轄の私的懇談会「通信・放送の在り方に関する懇談会」でも議論を呼んでおり,政府が6月に取りまとめる予定の「骨太の方針」にも何らかの回答が盛り込まれる見通し。また,知的財産戦略本部が近くまとめる「知的財産推進計画2006」にも取り上げられることから,文化庁も6月一杯で方針を固めることとしている。

 今回の会合には,KDDIやソフトバンク,東西NTT地域会社の関連会社ら10社が4月19日に設立した「役務利用放送協議会」が参加した(関連記事)。役務利用放送協議会は,IPマルチキャストの著作権法上の位置付けの見直しを目指す団体。意見陳述でも「(ケーブルテレビのような)有線放送と同様に,地上デジタル放送および衛星放送の同時再送信が行えるように,IPマルチキャストの著作権法上の位置づけを『放送』にしてほしい」と主張した。

 IPマルチキャストと有線放送の著作権法上の大きな違いは,著作隣接権の扱い。音楽を例に考えると,著作権は作曲者・作詞者が保有するもので,著作隣接権はレコード会社や演奏者が保有している。有線放送であれば,著作権者から許諾を得ればコンテンツが流せる。しかしIPマルチキャストでは,著作権と著作隣接権の両方を権利者の許諾が必要なため,処理が煩雑になることが少なくない。テレビ番組を再送信するに当たって,著作隣接権の処理までやるのでは,再送信の実現が難しいというのが通信事業者らの主張である。

 既に総務省では地上波デジタル放送の難視聴対策として,IPマルチキャストを使ったIP再送信を行う方針を決定している。役務利用放送協議会では,2011年のアナログ停波に備えるべく,著作権法の早期の見直しが必要だと訴えている。また通信事業者にとっては,ケーブルテレビとの競争を考えると,地上波放送と衛星放送の再送信は悲願といってもいい。

 こうした訴えに対して委員からは,「IPマルチキャストが発展できない理由は本当に著作権の問題なのか」という質問が投げかけられた。これ対し役務放送利用協議会は,「煩雑な権利処理が発生するのはもちろんだが,有線放送かどうかで権利者側の対応が大きく異なる。これまでは事業者の努力で許諾を取ってコンテンツを獲得してきたが,今後の発展を考えて見直しをお願いしたい」(役務利用放送協議会)とした。

 また別の委員からは,「著作権法だけ変更すればIPマルチキャストで地上波の再送信が簡単にいくとは考えにくい。総務省管轄の放送法でも見直しが必要なのではないか」という指摘も飛び出した。そもそもケーブルテレビ局が地上波放送を再送信しているのは,難視聴対策としての再送信が義務付けられており,権利処理も運用面で大幅に簡素化されているという事情があるからだ。さらにテレビ局が再送信の許可をしなかった場合に,総務大臣に申し立てできる「大臣裁定」も有線放送では担保されている。著作権法でだけIPマルチキャストを有線放送と同じ扱いにしたところで,結局のところ,テレビ局がノーといえば早期の再送信はできないのではないかという指摘だ。

 文化庁が提示しているスケジュールでは,5月30日に開催予定の第4回会合で報告書の骨子をまとめる計画。しかし今回の会合では,方針の決定に関わる決定的な議論はなされなかった。複数の委員から,「スケジュールがタイトで議論する時間が足りない」という意見が出されたが,文化庁は次回会合での方針の取りまとめを要望した。