写真1 松下電器産業の高木俊幸氏。「TOUGHBOOKは堅牢性、Let's noteは長時間駆動。今後はお互いの長所を相互に生かした製品開発を進めていく」
写真1 松下電器産業の高木俊幸氏。「TOUGHBOOKは堅牢性、Let's noteは長時間駆動。今後はお互いの長所を相互に生かした製品開発を進めていく」
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写真2 「ウォータースルー構造」の仕組み
写真2 「ウォータースルー構造」の仕組み
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写真3 日本IBM(当時)が1998年に「ThinkPad 600」で採用した「バスタブ構造」
写真3 日本IBM(当時)が1998年に「ThinkPad 600」で採用した「バスタブ構造」
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写真4 2000年の「ThinkPad A20」「同 T20」では、バスタブに切り欠きを設けて排水する構造にした
写真4 2000年の「ThinkPad A20」「同 T20」では、バスタブに切り欠きを設けて排水する構造にした
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写真5 2001年発売の「ThinkPad A30」。きょう体底面に抜ける排水口を設けた
写真5 2001年発売の「ThinkPad A30」。きょう体底面に抜ける排水口を設けた
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表1 パソコンメーカー各社による、ノートパソコンの防水性への取り組み
表1 パソコンメーカー各社による、ノートパソコンの防水性への取り組み
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 「防水性を持たせたビジネス向けノートパソコンを旗印に、当社のノートの販売台数を50%上乗せしたい」(松下電器産業 パナソニックAVCネットワークス社 システム事業グループ ITプロダクツ事業部 事業部長の高木俊幸氏=写真1)。松下電器産業はノートパソコンの新機種「Let's note LIGHT CF-Y5」(関連記事)で、キーボード面に防水加工を実施(写真2)。同社が業務用ノートパソコン「TOUGHBOOK(タフブック)」で培ってきた堅牢さという技術とブランドイメージを生かし、一般向けのノートパソコンでも防水性を前面に押し出す。

 こうした防水性を追求する動きは、ユーザーにとっては歓迎すべきものだ。かつて衝撃に弱いとされていたハードディスクも、自由落下を検知して地面に衝突する前にヘッドを退避できるよう加速度センサーを取り付けるなどの改良により、今では携帯電話機にさえ搭載できるほど進歩した。これと同様、精密機器の固まりで水に弱いというノートパソコンの常識も、いずれ過去のものになるかもしれない。

キーボードの下に「バスタブ」

 ノートパソコンの防水性という課題に古くから取り組んできたメーカーに、レノボ・ジャパンがある。同社は1998年に「ThinkPad 600」で、同社として初めてキーボード面に防滴加工を施したノートパソコンを量産出荷した。このときに採用したのが、「バスタブ構造」と呼ばれる手法である。キーボード面の下部に高さ数mmの皿状のアルミ板を入れるというものだ(写真3)。キーボードの上から水をこぼしても、この受け皿で水を受け止められる。プリント配線基板などパソコンの心臓部への浸水を防ぐことに効果がある。

 バスタブ構造はThinkPad 600以降の製品でも採用されていたが、数年後に新たな問題が浮上した。ノートパソコンの薄型化のために、バスタブ構造に使うアルミ板の高さを十分に確保できなくなったのである。壁の高さが低くなれば、当然受け止められる水の量も少なくなる。そのため、2000年の「ThinkPad A20」「同 T20」では、バスタブの壁のうち手前側に切り欠きを設け、そこからきょう体の外へ水をこぼす排水路を設けた(写真4)。その後、2001年発売の「ThinkPad A30」では、バスタブの側面ではなく底面に穴を空け、そこから水を外部に流し出す仕組みとした(写真5)。

 現在はThinkPadブランドで販売される全製品において、きょう体の実装密度などに応じて側面の切り欠きか水抜き穴のいずれかを採用している。レノボ・ジャパン 製品開発研究所 先進機構設計 副部長の堀内光雄氏は、「防水構造は個々の機種ごとに異なり、排水効率を高めるよう毎回工夫を凝らしている」と防水性へのこだわりを見せる。ちなみに同社では加圧試験や落下試験とともに、キーボードにコーヒーやコーラをこぼすという耐久性試験を実施しており、そのようすを同社Webサイトで公開している。

LGや東芝などが特許を出願

 他社も負けてはいない。東芝は2005年の春モデル以降、軽量ノートパソコン「dynabook SS MX」に防水構造を採用している。富士通も、2006年4月に発売された最新の夏モデルのうち、「FMV-BIBLO MG」の全4モデルと、「同 NB」10モデルのうち5モデルで、バスタブ構造を新たに採用した(表1)。

 関連する特許も複数のメーカーが出願している。「バスタブ構造や排水口の手法は使い古された技術で、過去に異なる分野の製品で実施されているものが多く、特許になりにくい」(レノボ・ジャパンの堀内氏)というものの、防水や排水の手法に工夫を凝らし特許を出願するメーカーもある。

 例えば東芝は、キーボードの下部に粘着性の防水シートを貼り付けるのではなく、金属板を差し込んでフックで固定するという技術で特許を出願している。韓国LG電子も、きょう体内部に排水用の溝を複数設ける手法を日本で特許出願している。今回の件とはやや性格が異なるが、米IBMは2001年4月に、ノートパソコンの通気孔から液体が浸入するのを防ぐという特許を日本で出願し、2005年1月に成立している。

 松下電器産業は、きょう体内部に吸水ポリマーを入れて水を吸い取らせるという特許を2000年2月に出願しているが、今回発表した防水技術とは別物のようだ。「CF-Y5に採用した防水構造は、他社の特許も精査した上で、独自の技術を用いて開発したもの。他社の特許に抵触する可能性はないと考えているし、新たに特許申請することを検討している」(松下電器産業 パナソニックAVCネットワークス社 システム事業グループ ITプロダクツ事業部 テクノロジーセンター主任技師の谷口尚史氏)という。

 他社の特許と異なる独自の技術で、水に強いノートパソコンを開発していくことが、今後ハードウエア技術者の間で腕の見せ所となりそうだ。

キーボードにこぼした水は底面から排出