CISPR委員会の会合風景
CISPR委員会の会合風景
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 総務省は4月18日,高速電力線通信の実用化に際する技術基準などを検討する情報通信審議会技術分科会配下の「CISPR委員会」を開催した(写真)。

 今回の会合は,委員会で取りまとめた電力線通信用機器の出荷認定試験時の測定方法や,漏えい電磁波の規制値,スプリアス(不要輻射)の規制値などの案に対する意見を聞く公聴会の位置付け。電力線通信と同じ周波数帯を利用する無線システムから,日本アマチュア無線連盟,日経ラジオ社,国立天文台の近田義広教授のほか,NTT持ち株会社,NTT西日本,電力線通信を推進する業界団体「PLC-J」,大阪大学大学院基礎工学研究科の北川勝浩教授がそれぞれ持論を展開した。

 引き続き開催したCISPR委員会配下の「高速電力線搬送通信設備小委員会」では,公聴会で出た意見について構成員で議論した。

 特に問題となったのが,北川大阪大学教授の指摘だ。北川教授の指摘とは,研究会で検討した規制値(コモンモード電流値)は田園地域と商業地域だけで,住宅地域に関しては検討がなされていないというもの。研究会では,住宅地域の雑音環境が商業地域と田園地域の中間に位置することから,詳細な検討は行っていない。しかし,北川教授の計算によれば,木造家屋が多い住宅環境が最も厳しい状況に陥るという。

 無線システムと電力線通信の共用を検討した「高速電力線搬送通信に関する研究会」(2005年12月に終了)では,99%の家屋で電力線通信の影響が出ないようにするという考え方の下に規制値を取りまとめてきた。これに対して北川教授は,「最悪の場合で50%の住宅に影響が出る計算。これは研究会の考え方と趣旨を異にするのではないか」と主張した。

 これに対して,委員会の主任を務める東北大学電気通信研究所の杉浦行教授は「計算自体は北川教授の指摘通り」と認めた上で,「現状の住宅環境の雑音環境はグレーゾーン。家電機器が増えた今,実態を把握する必要がある」と発言した。

 この発言は,高速電力線搬送通信に関する研究会での議論と関係がある。99%の家屋で電力線通信の影響が出ない許容値を求めるために,計算のベースとなる電力線モデム間の離隔距離や建物の遮へい,無線局空中線が受信する電力線通信からの妨害波といった数値を,実験やシミュレーションを重ねて決定した。研究会ではこれらのパラメータを,現状の田園地域,商業地域を表すように決定した。だが,このパラメータの決定方法によって規制値は大きく変わってくる。杉浦教授の「グレーゾーン」という発言は,プラズマ・テレビや電子レンジといった家電製品が普及した住宅地域の環境が,実際どうなっているか分からないことを意味している。

 今回の小委員会で北川教授の意見への明確な回答はしておらず,次回会合で何らかの回答が出される見通しだ。また杉浦教授は,「研究会で取りまとめた規制値を満たすモデムをメーカーが試作している。このモデムを使った実験を実施した上で,場合によっては規制値の見直しもあり得る」とも発言している。