写真:新型の「ユビキタス・コミュニケータ」。今後の実験で使用する予定
写真:新型の「ユビキタス・コミュニケータ」。今後の実験で使用する予定
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 国立西洋美術館がITを活用した新しいサービスに乗り出す。まず4月29日から5月7日の連休期間に,携帯情報端末やBluetoothアンテナなどを使った,案内サービスを実験的に提供する。

 実験に協力するのは,坂村健 東京大学教授が率いるYRPユビキタス・ネットワーキング研究所。ロダンの彫刻などの作品の前に無線ICタグやBluetoothアンテナを設置。来館者が携帯情報端末の「ユビキタス・コミュニケータ」を持って近づくと,その作品の解説を表示する。ユビキタス・コミュニケータは同研究所が開発したもので,無線ICタグをはじめとした各種のセンサーを備えたもので,これまで上野公園や新宿,神戸空港など,各地のユビキタス分野の実験で使われている(関連記事)。作品と解説データのひもづけには,坂村教授が提唱する仕組み「ユビキタスID(uID)」を使う(関連記事)。

 文書や動画など解説用のコンテンツの整備には,NHKグループや東京大学の池内克史教授が協力する。NHKグループが所有する美術番組を国立西洋美術館に提供。美術館員と協力して編集し直し,今回の実験で使うユビキタス・コミュニケータ上に映し出す。コンテンツにはロダンの彫刻の3次元CGが含まれるが,これは池内教授の研究室が持つ物体の計測技術を使ったものである。

 国立西洋美術館は今後2~3年かけて,所蔵作品約5000点の解説データの作成や,作品にBluetoothアンテナや無線ICタグを付与するといった仕組みの整備,インターネットを使ったサービスの整備を進める。同美術館は一連の取り組みを「ウェル.com美術館ユビキタス・ネットワーク」と呼んでいる。

 今年10月には収蔵品の写真をオンデマンド印刷の形で提供するサービスを開始する。写真のデータ化には,日本写真印刷がベンチャ企業と共同で開発した圧縮形式を使用する。この圧縮形式は画像が劣化しにくく,美術データの保存に適しているという。

 国立西洋美術館の青柳正規館長は,「美術は,作品の解説情報が少なさが,一般の人にとって敷居の高さにつながっていた」と打ち明ける。「ITを活用することで,作品の理解を深めるコンテンツをその場で提供できる。この威力は大きい。ITの活用で,美術に対する一般市民の壁を打開したい」(青柳館長)。

3.5インチ有機EL搭載のユビキタス・コミュニケータを初公開

 坂村教授は今回の実験の発表と合わせて,ユビキタス・コミュニケータの次期版を初めて公開した(写真参照)。3.5インチの有機ELディスプレイを搭載。「以前のモデルよりもディスプレイのサイズが大きく,屋外でも見やすいため,美術館や展示会などでの利用に適している」(坂村教授)。同時に小型化も図り,サイズは幅70×高さ113×厚さ13ミリで,重量は176グラム。既存モデルのサイズは,幅76×高さ144×厚さ15ミリで,重量は約196グラムである。

 まだ製造を委託しているメーカー側の量産体制が整っていないため,4月末からの実験サービスでは,新しいモデルではなく既存モデルを使う。量産体制が整い次第,国立西洋美術館をはじめ各種の実験サービスに提供する予定。