エイドリアン・ステファンズ氏 IEEE802.11TGnテクニカルエディター 米インテル コミュニケーション・テクノロジー・ラボ プリンシパル・エンジニア
エイドリアン・ステファンズ氏 IEEE802.11TGnテクニカルエディター 米インテル コミュニケーション・テクノロジー・ラボ プリンシパル・エンジニア
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「TGnSync」「WWiSE」などの研究グループが草案作成に取り組んだ。「EWC」は米インテルや米アセロス・コミュニケーションズが中心となって結成された
「TGnSync」「WWiSE」などの研究グループが草案作成に取り組んだ。「EWC」は米インテルや米アセロス・コミュニケーションズが中心となって結成された
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 新しい無線LAN方式IEEE802.11nの草案が2006年1月に決まり、2007年4月といわれる正式規格の策定に向けた取り組みが進んでいる。IDF Japanで来日した、IEEE802.11nの策定作業を手がける米インテルのエイドリアン・ステファンズ氏に策定までの見通しを聞いた。

■長引くと見られていた11n規格の草案が急速にまとまった理由は。

 技術面だけでなく、「EWC」というグループが商業面の要望をまとめたためだ。IEEE(米国電気電子技術者協会)で11n規格の検討が始まったのは3年前。その後、TGn(タスクグループn)の規格案を提案するために、さまざまな企業が集まり、「TGnSync」「WWiSE」という2つの研究グループができた。11nの草案をまとめるためには、全体の75%の賛同が必要となるが、2グループが出した案に対し、完全に票が割れた。そこで、2グループの案を統合した「TGn Joint Proposal」が検討された。ただし、最終案をまとめるには、技術面だけではなく、商業的な側面も検討する必要があった。その役割を「EWC」が果たした。EWCが各メーカーの力関係をまとめ、TGn全体の賛同を得ることができた。

■多くの意見を統合したため、11nの草案に含まれる機能の幅が広すぎるという意見もある。

 草案では必須となる通信機能のほかに、数多くのオプションの機能を含んでいる。それらの機能を製品にどう実装し、どのように重み付けをするかは無線LAN製品のメーカーによって異なるだろう。相互運用性についてはWi-Fiアライアンスが検討を進める。Wi-Fiの認定を受けるには、このオプションとこのオプションに対応していないといけない、といった制限がでてくるだろう。

■11nの規格が策定されるまでに、仕様が大きく変わる可能性は。

 変更は避けられない。今後は、TGn内で草案に対する変更、または改善するべき点を募集するプロセスに入る。この意見に対して、受け入れるべきかどうかのバランスを検討していく。どのような機能が削除されるのか、追加されるのかはまだ見えない。ただ、EWCに参加した企業から見ると、必須となる基本的な通信機能については十中八九変わらないという見方が多いようだ。

■データの流れ(ストリーム)を4つに増やすと600Mbpsまで高速化できるとしているが、実現できるのか。

 技術的には可能だが、将来の製品で対応することになるだろう。コストの問題もある。当初は2ストリームの製品から登場すると見ている。

■インテルが無線LANに力を入れる理由は。

 11nに対する取り組みは、無線通信の全体的なシステムの成長を推進していくという“壮大な計画”の一部に過ぎない。インテルは、無線LANのほかにも、WiMAX、第4世代の携帯電話といった分野にも取り組んでいる。将来的には、これらの通信でローミングできるようにする。無線LANに成熟した市場があり、ユーザーの要望があることは疑いの余地がない。現在、社外にパソコンを持ち出しメールを読むことなどは当たり前にできるようになった。11n方式で通信が高速化することにより、動画のストリーミングを再生するといった新しい用途も提案できだろう。2007年には「Santa Rosa」(開発コード名)という11nに対応したノートパソコン向けのプラットフォームを投入する。