グーグル インターナショナル・プロダクトマネジャ Angela Lee氏
グーグル インターナショナル・プロダクトマネジャ Angela Lee氏

 優秀なエンジニアをかき集め,革新的なサービスを次々とリリースしてきたGoogle。「エンジニアのエンジニアによるエンジニアのための会社」(梅田望夫氏)といわれる同社の研究開発はどのように行われているのか。インターナショナル・プロダクトマネジャ アンジェラ・リー氏に話を聞いた(聞き手はITpro発行人,浅見直樹)

---Googleは自前主義と言われます。

リー氏: 本当に1からコードを開発している。メモリーの深い部分をどう効果的にコントロールするか,から始めて,ハッシュテーブルをどうするか,ユーザーインタフェースの部分まで,最後の1バイトまで自分たちで書いています。

買ってきたものだと限界にぶつかる

 なぜかといえば,他社のプラットフォーム上にコードを書いていると最終的にはどこかで壁に突きあたるんです。私の場合,国際化を担当していますが,日付の順番などが各国の言葉によって異なるところが,プラットフォームの制限によって,足かせになることがあります。

 最初から全部を自前で作ろうと思っていたわけではないんです。「検索エンジンを作る」という目的がまずあって,そのために必要なコンポーネントを考えていきました。メモリー管理の仕組みが必要になり,ハードウエアが必要になり,トラフィックを測定するツールだったり,ユーザー・インタフェースだったり。足りないものが次々と出てきたんです。

 外からモノを買ってくるのが嫌いな会社なんです。買ってきたものだと,どこかで限界にぶつかる。ブラックボックスがある。それを乗り越えるためには自分で作るしかないという考え方です。

 GoogleのサーバーはLinuxを使っています。オープンソースの場合,ブラックボックスがなくて,かついろんな人たちがプラットフォームを熟知していって,その上からものを作ることができる(関連記事)。

---エンジニアの数は。

リー氏: 社員数はいま約5700名で,だいたい半分くらいがエンジニアです。

考えた人が最後までやる,全てのプロジェクトは10人以下

---研究エンジニアと開発,保守エンジニアの区別はないんですか。

リー氏: 区別はありません。作った人が最後まで面倒を見るのが一番効率がいい。考えた人が自分で作って,リリースして,ケア(保守)していく。一段落したらまた次のプロジェクトに取り掛かるというサイクルです。

 次の人に渡して「じゃぁ,よろしく」だとつまらないし,みんな責任を持たなくなっちゃうじゃないですか。

ラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏
ラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏
2004年10月,日本の研究開発拠点開設時の写真)

 (創業者の)ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンが昔から言ってるんですよ。「大きな会社ってヘンだよね」って。

 大企業になると,なぜかみんなが専門家になりますよね。それで人が増えた分,やることが増えるかというと,増えない。「それってヘンだよね。そんな会社にはぜったいしたくない」っていうのが創業者の今でも変わらぬ信念です。

 昔からそう言っていたんですが,で,Googleが5000人以上になってどうなったかというと-----昔のままなんですよ。プロジェクトのチームの数は,みんな10名以下です。

 それで5700名の半分がエンジニアですから,ものすごい数のプロジェクトが動いている。とにかくプロジェクトを小さくするのが理想になっています。10名以下じゃないと意思決定できない,というような。だからこれだけの規模になっても,まだスタンフォード(大学)にいるような雰囲気です。

 イントラネットに誰でも見れるプロジェクト・データベースがあって,そこにプロジェクトの目的やメンバーや大まかなスケジュールが書いてあるのですが,ラリーやサーゲイもそれを見ていて,今でも現場にレビューに来ます。来ると「説明はいいからソースコードを見せて」と。そのほうが早いからと(笑)。マウンテンビュー(の本社)では今でもふらっと来ては現場のエンジニアと議論したりしています。

---東京ではどんな研究開発をやっているのですか。

リー氏: すごく幅広いですね。これ,とは言えない。もちろん日本語の取り扱いに関する研究開発をやっていますが,マウンテンビューでも日本語を扱っている。

全体で考えないとプロダクトはできない

---日本では,自分たちの専門以外に踏み込もうとしない。例えば画像認識なら,私の仕事はアルゴリズムで,そのインタフェースの外の実装はほかの人の仕事,となる。

リー氏: 画像認識なら,アルゴリズムだけでなくソフトウエアもハードウエアも必要ですよね。全体で考えないとプロダクトはできないという考え方があります。

 Googleでは,書籍のスキャンニングを手がけていますが,画像認識ソフトウエアの専門化がハードウエアの担当者といっしょになってやっています。「ソフトウエアの限界はここまでだから,ハードウエアでカバーしてよ」とか。ハードも自分で作っているわけではないのですが,カスタマイズしています。

---アメリカでは自前主義にあたる言葉はあるんですか。

リー氏: うーん,Do It Yourselfかな。こう言うと日曜大工みたいですけど,でもGoogleも日曜大工に近いかもしれません(笑)