情報処理学会は3月6日、最近発生したシステム・トラブルについての正式見解を発表した。「情報システムは人間が設計したことを忠実に実現するもの。人間が過ちをおかす以上はシステムの欠陥をゼロにできない」とした上で、トラブルの背景には、こうした「情報システムの原理に対する理解の欠如がある」と分析。「このままでは、今後も同種の事件が発生し続け、わが国の前途に重大な影響を及ぼす」と警鐘を鳴らしている。

 情報処理学会が見解の中で取り上げているシステム問題は、四つある。一つ目は、昨年11月以降明らかになった建築設計事務所における構造計算書の偽造事件に関して、構造計算のチェックに使用するプログラムの出力が改ざんされた問題。二つ目は、昨年12月8日に発生したみずほ証券の誤発注。三つ目は、2005年12月24日のフィギュアスケート全日本選手権で、採点プログラムの不具合により1位と2位が入れ替わるという事件。四つ目は、今年1月18日に東京証券取引所が東証1部・2部・マザーズ市場の株式、CBおよび交換社債全銘柄について取り引きを強制停止したことだ。

 いずれの問題も、「情報処理の専門家から見れば『明らかにおかしい』と思えるシステムの設計や運用が何の疑問もなく行われ、その結果『当然起こるべくして起こる』問題が発生したもの」との見方を示している。さらに、「報道機関等のコメントも表層的な事象を指摘するばかりで、事件の根底にある本質に迫るものはほとんど見当たらない」と批判している。

 こうした問題を解決するためにまず必要なことは、「国民が情報システムの原理をきちんと理解すること」であると主張。「小学校や中学校、高等学校などにおいて、すべての生徒を対象に、情報処理と情報システムの原理をきちんと教育していかなければならない」と述べている。

 1960年設立の情報処理学会は、IT専門の学会では最大手。情報処理にかかわる技術全般を研究テーマにしている。会員数は昨年3月時点で2万812人。会長は慶応義塾の安西祐一郎塾長が務めている。情報処理学会が、社会をにぎわすようなシステム障害に正式見解を出すのは珍しい。学会が指摘した「情報システムに対する国民の理解の欠如」が解決していくかどうかは、国内最大の情報処理技術の専門家集団である情報処理学会の活動ぶりにかかっているともいえる。