米Borland Software デベロッパー・リレーション担当副社長 David Intersimone(“David I”)氏
米Borland Software デベロッパー・リレーション担当副社長 David Intersimone(“David I”)氏
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 ボーランドが東京で開催している開発者会議「Borland Developer Conference Tokyo 2006」に合わせて,米Borland Softwareのデベロッパ・リレーション担当副社長であるDavid Intersimone(“David I”)氏が来日,2006年2月8日(米国時間)にBorlandが米国で発表した,DelphiやC++Builderを含む統合開発環境(IDE)事業の売却について日経ソフトウエアのインタビューに応じた。

——2月8日に発表したIDE事業の売却の経緯は。

 米Borlandは今後,大規模なシステムを長期間にわたってサポートする「Application Lifecycle Management(ALM)」事業に注力していく。IDE事業の売却に関する発表と一緒に発表した,ソフトウエアの品質最適化システム製品を持つ米Segue Softwareの買収はその一環だ。

 こういった製品を必要とする顧客に対するビジネスモデルと,個人や小規模なチームでソフトウエアを開発している顧客に対するビジネスモデルとは全く異なる。個人や小規模な顧客は,シュリンクラップのパッケージの形で製品を購入し,各種テクノロジへの対応,使いやすい言語,さらには事例を含めた豊富な情報などを求める。一方,大手のカスタマは複数年にわたる契約に基づいて製品を導入し,その後も担当者による綿密な情報提供を求める。コンサルティングをすることもあれば,チームとしてサービス,サポート,トレーニングなどを提供することもある。

——今回の発表によってIDE事業はどうなっていくのか。

 IDE,言語製品,データベース製品は,新しい事業体を作って育てていくからどうか安心してほしい。この新しい事業体に,IDE製品に関する研究・開発部門,サポート部隊,営業,マーケティングなどがそっくり移る。もちろん私自身も移ることになる。エンジニアはすでに次期バージョンの研究・開発を進めているし,サポート部隊も今後も支援を提供していくと言うことを顧客に伝えている。

 新しい事業体に対する投資家の選定に当たって我々が最も重視しているのは,既存の顧客のニーズに対応していける形にすることだ。BorlandのCEO(最高経営責任者)であるTod Nielsenは,投資額の多寡ではなく,自分たちのデベロッパ・ビジネスを育ててくれる適切な投資家を選ぶと明言している。

——新会社をおこさずに,製品群をオープンソース・ソフトウエアにするという選択肢はあるか。

 我々の最大の目標は適切な投資家を得て,製品,カスタマ,サポート,トレーニングなどからなるエコシステムを成長させていくことだ。それ以外のことは考えていない。

——現在,開発者向けのサービスとして提供しているBDN(Borland Developer Network)はBorlandに残るのか。

 これは開発者のネットワークなので,IDE事業と一緒に新しい事業体に移る。その際,BDNの“B”の部分は変わるかも知れない。また,現在のBDNにはALMに関するコンテンツも含まれているので,そっくりそのまま移るかどうかは決まっていない。仮に分割されたとしても,相互にアクセスできるような形になるだろう。

 ローカライズも進めていく。ユーザー・インタフェースや重要なコンテンツについては英語だけでなく各国語に翻訳していく。日本でもデベロッパの協力を仰ぎながら進めていきたい。また,外部の既存の情報に対するリンクを拡充するなどしてデベロッパを支援する環境を整えていく。

——Borland本体から離れることで,Borlandに残るALM製品群との連携は薄れるのか。

 もともと,ALMシステムは様々な背景を持つ人が利用する。開発ツールについても特定の製品には依存しない。「agnostic(認知不能)」という言葉を使って「ALMシステムはIDE agnosticだ」と表現したりする。確かに,現在は一つの会社なのでALM製品群とIDE製品群が密接に連携できている面はある。会社が分かれることでビジネスの方向性は変わるが,テクノロジの面ではライセンスを結ぶなどして互いに最良のパートナとなるだろう。両者のテクノロジにまたがる顧客にとっても望ましい形だ。

——今後,IDE製品をどのように成長させていく考えか。

 開発生産性の向上と開発者同士のコラボレーションを推し進めていくことになる。既に2005年末に主な製品のロードマップを公表している。例えばDelphiとVCL(Visual Component Library)は,.NET Framework 2.0,.NET Compact Framework,Windows Vistaはもちろん,ネイティブのWin64環境などに対しても提供する。マイクロソフトは .NET環境への移行を推進し,ネイティブのWindows API環境でのRADサポートをVisual Basic 6.0で打ち切ってしまった。Delphi開発者は今後も長きにわたってDelphiでの開発を続けていけると見通しを立てられるだろう。

 JBuilderは,よりシンプルにJavaプログラミングができるツールとしてクライアントサイド,サーバーサイドともにサポートを続けていく。「Peloton」というコード名で開発している次期版はJBuilderの使い勝手をEclipse上に実現したものになる。

 開発生産性を向上させる機能としてUML(Unified Modeling Language)技術を積極的に取り入れていく。一つは,既に出荷を開始している「Borland Developer Studio 2006」に搭載したUMLモデリング・ツール「Borland Together」だ,LiveSourceと呼ぶ技術によってUMLモデルとコードが開発環境内で連動するようになっている。もう一つはモデル駆動型の開発支援機能の拡充だ。具体的には「ECO(Enterprise Core Object)」がこれに当たる。これは「OCL(Object Constraint Language)」と呼ぶ言語を使うことで,ユーザー・インタフェースやビジネス・ロジックなどをモデル・レベルでプログラミングできるようにするためのフレームワークだ。バージョンアップごとに高機能なものになってきている。