事務所が火災に遭って燃えたパソコンの実機。76Gバイトを総額43万8000円で復旧した。所要期間は2日。
事務所が火災に遭って燃えたパソコンの実機。76Gバイトを総額43万8000円で復旧した。所要期間は2日。
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ワイ・イー・データのオントラック事業部に所属する3人。営業担当課長の岡野要治氏(写真左),技術部担当課長の辻庸光氏(写真中央),営業担当部長の井関賢治氏(写真右)。
ワイ・イー・データのオントラック事業部に所属する3人。営業担当課長の岡野要治氏(写真左),技術部担当課長の辻庸光氏(写真中央),営業担当部長の井関賢治氏(写真右)。
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 「まだデータ復旧サービスの認知度は低い。2005年時点での市場規模は20億円だが,潜在需要は少なくても100億円はある」---。失われてしまった情報システムのデータを復旧させるサービスを提供するワイ・イー・データ(以下,YE DATA)は2006年3月1日,データ復旧のための事前調査にかかる費用を,1台あたり1万~2万円と従来の約半額の価格に改定する。調査後の復旧費用は数万円からである。

 火災や地震などの災害や故障といった物理的な破損や,オペレータが誤って消去してしまったファイルなど,情報システムのデータを復旧させる需要は高い。YE DATAが提供するデータ復旧サービスは,こうした失われたデータを,失われる直前の状態に戻すものだ。案件の77%を占めるハードディスク(HDD)のほか,テープや光媒体,半導体メモリーも復旧の対象だ。

 データ復旧には,提携先である米Ontrack Data Recoveryが開発した技術とノウハウを利用する。物理的な障害がある場合や重度の障害がある場合には,本社(埼玉県入間市)にあるデータ復旧施設(ラボ)内で復旧作業を施す「In-Lab Service」を用意。一方,通信回線を経由してリモートから企業にアクセスし,通信回線経由でディスクの診断と復旧作業を実施するサービス「Remote Service」も用意している。ファイルの消去など人為的なデータ損失のうち,簡単な事象を自己解決するためのWindows版ソフト「Ontrack EasyRecovery」も1万3965円で出荷中だ。

 ラボに持ち込むIn-Lab Serviceのサービス・フローは,調査に最短で半日,平均1.7日をかけ,データの復旧作業に最短で半日,平均0.8日をかける。通常サービスは平日昼間の作業となるが,急ぎの案件の場合は,追加料金を払うことで平日夜間や土日の作業も請け負う。また,利用は個人向けに限定されるが,平日昼間の作業の空き時間を利用することで価格を下げたサービス「パーソナルパック」も用意した。

 オントラック事業部は1995年にデータ復旧サービスを開始。以降,実績ベースで1997年に1000件に満たなかった案件数は2005年に4100件へと約4倍に増加。売上高は2006年3月期に約9億円を予定する。法人需要に限らず,全体に占める個人の案件も急増。個人需要は2005年に500人超と全体の14.4%にまで成長した。ここにきて事前調査費用を改定した背景には「敷居を低くする」(オントラック事業部営業担当部長の井関賢治氏)ことで潜在需要を掘り起こす狙いがある。

 販売機会を向上させるために大塚商会などサービス事業者17社と販売代理店契約を結んでいるほか,ストレージ製品ベンダー各社とデータ復旧サービスで業務提携している。顧客から問い合わせを受けたストレージ製品ベンダーがYE DATAを紹介するというビジネスモデルだ。こうしたベンダーには,アイ・オー・データ機器,アイオメガ,デル,バッファロー,ロジテックなどがある。

 同社の統計によれば,ここ最近で急増している事例は2種類あるという。1つはクライアントPC上に保管してある電子メールを誤って消去してしまった,という論理的なデータ障害のケースである。もう1つは低価格NAS(ファイル・サーバー専用機)のディスクが故障するという案件で,こちらは物理障害の典型である。NASの案件は特に急増しているという。背景には,大企業の一部署が部門ファイル・サーバーとしてNASを導入するケースが増えているという状況がある。

 論理的なデータ障害にせよ物理障害にせよ,データの復旧が可能になるのは,ディスク上にデータが残っている場合に限られる。つまり,データ用に使われていない空きディスク領域をNULL値で埋めた場合や,別のデータで上書きされたことによって元のデータがディスク上に残っていない場合などでは,原則として復旧できない。一方,誤ってパーティションを論理フォーマットした場合や,ファイルを消去してから日が浅いためにデータがディスク上に残っている場合は復旧が可能になる。

 物理的な障害において周辺回路や可動部分が壊れていても,ディスク・ドライブの中にあるディスクが無事であれば,データを復旧させる。ディスク本体の表面に傷が付いているなどディスク自体に障害が及んでいる場合でも,読み出せる保証は無いが,独自のノウハウを用いて可能な限りデータを読むよう試みるという。

 企業によっては,何回も繰り返してデータ復旧サービスを利用するリピーターがいる。情報システム部門がエンドユーザーのクライアントPCを持ち込むケースが多いという。「某有名大企業の情報システム部門からは『いつものやつ頼む』という電話がかかってくる。これで通じる」(オントラック事業部技術部担当課長の辻庸光氏)。

 データの価値はユーザーごとに異なるため,データ復旧サービスの価格設定は難しい。事務所が火災に遭ってパソコンが燃えた企業の実例では,76Gバイトの復旧容量で調査費用と復旧作業費用込みで総額43万8000円を受け取った。所要期間は合計2日で,パソコンを預かってから調査に1日,ラボ内の作業に1日をかけた。

 価格に対するYE DATAの方針は,復旧可能なデータ領域の容量で価格を決めるというもの。最低額で言えば,人為的なミスなど軽度の論理障害であれば数万円から,物理障害であれば数十万円からという価格である。案件によっては難易度の高い作業工数が多くなるものもあり価格は上がる。一方,パーティション容量が大きくても実際に必要とするファイルの個数が少なくサイズも小さい場合には,価格を抑える。

 費用には改善の余地がある。データ復旧サービスを聞き付けたユーザーでさえ「問い合わせてきたうちの75%の人は費用面で復旧をあきらめる」(オントラック事業部営業担当課長の岡野要治氏)のが現状だからだ。データの内容によっては格安のサービスとなるが,個人需要では特に割高感が強い。こうした状況を受け,個人需要限定のパーソナルパックを用意した。ディスクが壊れるなどの物理障害が発生した場合の価格は11万2500円からである。