写真 総務省で2月6日に開催された「IP時代における電気通信番号の在り方に関する研究会(番号研究会)」の第6回会合
写真 総務省で2月6日に開催された「IP時代における電気通信番号の在り方に関する研究会(番号研究会)」の第6回会合
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 通信サービスの電話番号に新たな顔ぶれが加わる。固定電話と携帯電話を融合するFMC(fixed mobile convergence)サービスに割り当てる電話番号が,「060」で固まったのだ(関連記事)。総務省が2月6日に開催した「IP時代における電気通信番号の在り方に関する研究会(番号研究会)」で,同研究会のワーキング・グループ(WG)が検討結果を報告(写真)。060を割り当てるとの方針に,異論が出なかった。このまま順当に進めば,2002年11月に割り当てが始まったIP電話専用の「050」番号以来の新規割り当てとなる。

 FMCは同じ電話機を屋外では携帯電話網,家庭やオフィスなどでは固定回線を利用できるサービス。屋内では電話料金が安価になるなどのユーザー・メリットを打ち出せることから,海外ではワンホン・サービスとして商用化が始まっている。日本でもNTTやKDDIがワンホン・サービスを含めてFMCサービスを前向きに検討。商用化の前提となる電話番号の割り当て機運が高まってきた。

 そこで総務省はFMCの電話番号を新たに決めるため,2005年後半から積極的に研究会を主導。従来とは違う方針を次々と表明した。

大胆になった総務省の番号政策

 議論を始めるにあたって総務省は「0AB~J番号を他のエリアで利用する可能性を排除しないし,FMC専用の番号で一本化することもあるだろう」(総合通信基盤局電気通信技術システム課の吉田宏平課長補佐)とサラリと言ってのけた。これは,多くの通信事業者にとって「従来からは考えられない」というほど大胆な方針と映った。過去の総務省の施策は東京23区なら「03」となる0AB~J番号の地域性に強いこだわりを持っていたからだ。

 そして,初回の2005年9月21日の研究会では,参加する通信事業者からどよめきの声が上がった。総務省が各社の具体的なFMCのイメージを事前に意見募集するとしたからだ。提示した意見募集の提出フォーマットには,「電気通信番号の体系と理由」,「ネットワーク構成,ルーチング方法」,「システムの導入時期」,「想定される具体的サービスイメージ」,「利用シーン,期待される効果」などの欄が用意されていた。各社にFMC戦略の“手の内を明かせ”といわんばかりの体裁で,参加者から「これは事前サーベイではないのか」と懸念する発言も飛び出した。

「どこでも使える新番号」を投入

 こうした総務省の積極姿勢を背景に,研究会では活発な議論が交わされた。

 その結果,WGではFMC用の番号として,(1)新サービスに向けた新規の番号帯であること,(2)利用場所に制約されないこと,の2条件を設定した。そして,これらの条件を満たす060番号に白羽の矢が立った。

 060番号は携帯電話の「090」「080」などと同種の「0X0」系の番号であり,利用場所に地理的な制約はない。060番号はNTTコミュニケーションズのユニファイド・メッセージ・サービス「eコール」に割り当てられているが,利用されている番号帯はまだ少ない。このため,060番号を新規の番号として導入することとなった。

「090」もFMC用に導入の方向

 「当確」の060番号のほか,番号研究会では090番号など携帯電話のサービスで使用中の番号帯も有力候補として挙げられた。IP電話用の050やPHSの「070」を含めた既存の0X0番号はWGで継続議論していく。

 携帯電話事業者は,「番号を変えるとなると,既存の携帯電話ユーザーの利便性が下がる」(KDDI)と,これまでの携帯電話番号のままFMCのサービスを導入できるように要望している。NTTドコモ,ボーダフォンも同意見だ。

 一方,0AB~J番号はFMCでの利用は難しそうだ。FMCでは東京23区のユーザーが同じ「03」の番号を持つ相手に電話をかけたが,その相手が本来「06」の大阪市内で電話を受けるというケースが起こり得る。このため「FMCを利用しないユーザーの0AB~J番号も,『通話が転送されているかもしれない』と見られるようになり,番号に対する信頼性が変わってしまう。これは容認できない」(主婦連合会)との意見があった。これに対する反論はなかったことから,0AB~J番号の利用は見送られる可能性が高い。

電話番号と料金の紐付けが崩壊する

 FMCの議論を通して,現在の電話番号が抱える課題が続々と明らかになった。

 最大の課題が電話番号と料金の紐付けをいつまで保持するのかという点だ。現在の電話番号はその番号体系を見れば,どれくらいの料金がかかるのかということが想像できる。例えば,東京「03」のエリアにいる加入電話の利用者が,大阪「06」の番号に電話をかければ遠距離通話となる。また,090の番号にかければ固定より割高な携帯電話の料金となる。

 ところが,FMC専用の060番号はこれらの関係がなくなる。060番号は携帯電話やPHS,IP電話などFMCをうたう各種のサービスに割り当てられる見通し。電話をかけてくる相手は,番号から料金を見分けられない。つまり「料金は出たとこ勝負」となる。

 こうした特性があるため060番号のFMCは「着信先のユーザーの居場所や契約によって料金が変わる新規サービス」と告知される見通しだ。電話が登場して以来常識だった,「番号と料金の紐付け」の崩壊とも言える。

 FMCの議論はさまざまな問題を提起した。こうした中,電話番号ではなくIDで無料通話が可能なインターネット電話も台頭しつつある。「Skype」が代表格だが,米グーグルも乗り出している。電話の番号がIP化の時代にどうあるべきか。総務省や通信事業者は難しい舵取りを迫られている。