写真 NET&COM2006で2月2日に実施した,通信と放送の融合をテーマにしたパネル・ディスカッション
写真 NET&COM2006で2月2日に実施した,通信と放送の融合をテーマにしたパネル・ディスカッション
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 東京ビッグサイトで開催中の「NET&COM2006」で2月2日,通信と放送の融合をテーマにしたパネル・ディスカッションが開催された。「通信と放送と融合は現場で起こっている」と題したパネルには,600人を超える聴講者が詰めかけ,“融合”のキーパーソンたちの繰り広げる議論に聞き入った。

 パネリストとして登壇したのは,ソフトバンクの映像サービス「BBTV」など向けにコンテンツ調達を担うクラビットの楜澤(くるみさわ)悟氏,ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)で多チャンネル放送向けのアニメ・チャンネル「アニマックス」を手がける滝山雅夫氏,日本テレビ放送網で「第2日本テレビ」を取り仕切る土屋敏男氏,USENで無料インターネット放送「GyaO」の制作・編成を担う菊地頼氏というそうそうたるメンバー(写真)。進行は日経コミュニケーションの加藤雅浩副編集長が勤めた。

 冒頭に司会から登録者数を伸ばしている「GyaO」に話題が及ぶと,USEN菊地氏は「まだビジネスとしてうまくいっているとは認識していない」とコメント。これに対して日本テレビの土屋氏は,「GyaOのコンテンツの充実ぶりは驚がくに値する」と賞賛した。第2日本テレビはGyaOと競合する面もあるが,「将来的には競合するかもしれないが,今はマーケットを一緒に作っていきたいという気持ち」(土屋氏)と語った。

 通信と放送の融合の課題については,IP放送第1号としてコンテンツ収集に苦労してきたクラビット楜澤氏から,「早く著作権問題を解決してほしい」との訴えが上がった。VODコンテンツについては,「IP放送とは違って著作権が問題なのではなく,通信側のコンテンツ・ビジネスに対する不勉強が問題」(楜澤氏)と指摘。「どんな人がどんな思いで制作費をいくらかけて作ったコンテンツなのか理解した上で,コンテンツ提供をお願いすべき」(同)と主張した。

 これに対してSPE滝山氏は,「コンテンツを作る金がなくなると,コンテンツ産業自体が先細りする。クリエータにきちんと還元することが絶対に必要」と主張。さらに,「権利者は新しいメディアが登場したときに,コンテンツを出すことが損か得かをまず考えるもの。ネットに出した方がメリットがあることを納得させるプレゼンテーションがまず必要だ」とした。USEN菊地氏も,「著作権もコピー・プロテクトも問題なのは権利者にとって費用対効果が見合うかどうかだけ」と追随。面倒な処理をしてもそれ以上の収入が得られるなら,おのずとコンテンツはネットに出てくるものと持論を展開した。

 コンテンツ・ビジネスの海外進出も議論に上った。日本テレビ土屋氏は,「日本のコンテンツ力は非常に優れている。年内にも第2日本テレビの多言語対応などを進め,海外からの収益も上げる」と意気込んだ。SPEの滝山氏も,「少子化を考えるとアニメ・チャンネルは国内だけ見ていても成長には限度がある。アニマックスは今後,海外に進出を強化していく」と方針を語った。

 議論の終盤では,NTTグループが主張するGyaOなどサービス事業者の“ただ乗り”問題にも言及した。ただ乗り論とは,インターネット上でビジネスを展開するサービス事業者も設備投資を分担すべきというもので,NTTグループなどが訴えている。

 NTTグループにただ乗りと指摘されたGyaOについて,USEN菊地氏は「複数の通信事業者に対して高額のトランジット費用(相互接続料金)を支払っている。ただ乗りではない」と反論。その一方で,「考えていかなければならない問題だとは認識している。最終受益者であるユーザーへの料金値上げか,一次受益者であるサービス事業者が負担するかの二つしか選択肢はない。事業者間で協議するしかない」とした。

 クラビットの楜澤氏は,「ソフトバンクはインフラを支えるプロバイダと,サービス事業者の両方の顔を持っている。GyaOからのトラフィックを運ぶにの費用がかかるならば,ソフトバンクとしても映像サービスを打ち出してGyaOと同じだけのトラフィックを送出すればいい」とただ乗り論を否定した。さらに,「目くじらを立てて規制をしても,同じ問題は繰り返し起こるものだ」(同)と語った。

(山根 小雪=日経コミュニケーション