懇談会に参加するNTT和田紀夫社長(左)
懇談会に参加するNTT和田紀夫社長(左)
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 総務省が2月1日開催した通信サービスのIP化に向けた制度を議論する会合「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」に,NTT持ち株会社が踏み込んだ規制緩和要求を提出していたことが分かった(関連記事)。

 NTT持ち株会社からは和田紀夫社長が自ら会合に出席。NTTグループの置かれた立場を説明した(写真)。その中では,NTT局とユーザー建物を結ぶいわゆる加入者系光ファイバの他社への貸し出し料金について「実績と予測コストの間に大幅なかい離がある。適正なコストを回収することができない」と言及。現在月額5074円の光ファイバの貸し出し料金の値上げに向けた見直しを要求した。

 会合の場では,和田社長は規制緩和についてこれ以上の点に言及しなかったが,同日NTT持ち株会社が提出した資料に多くの具体的な規制緩和要求が記されていた。大きく三つの点が挙げられる。

 一つめが加入者系光ファイバに対する具体的な規制緩和要求。

 現在,東西NTTの加入者系光ファイバは回線数シェアが半数を超えていることから,他社への一定料金による開放義務が課せられている。NTTは従来からこの義務の撤廃を求めていたが今回は「撤廃に時間がかかるのであれば,架空の配線区間を規制から除外していただきたい」とした。ユーザーへの光ファイバの配線はNTT局から一定の距離までは地下管路を利用。その先は電柱を利用した「架空」でユーザー建物まで回線を敷設している。また,開放の「判定基準」も大幅な見直しを要求した。

 その理由として電力系事業者との競争激化,総務省が打ち出したNTT以外の事業者によるユーザー建物への引き込み簡素化,などを挙げている。

 二つめが通信サービス全般の開放義務の見直し。中でも東西NTTがブロードバンド・サービス用に都道府県単位で構築した「地域IP網」を一番目に挙げている。

 例えば,東西NTTのフレッツ・ADSLやBフレッツは地域IP網を使って,インターネット接続事業者と接続している。一方,他のブロードバンド事業者は地域IP網を利用せず,自社でIP網を構築しているケースがほとんど。

 地域IP網には,他社との接続義務だけでなく総務省による提供料金の認可と公表が義務付けられている。フレッツ・シリーズの料金設定により弾力性を持たせるための要求と見られる。

 三つめが電話料金の原価となる加入者電話網料金の算定方法を変更すること。

 現在の加入者電話網の事業者向け利用料金は,その時点で最もコスト効率が良い設備を購入したと仮定して運用コストを算定する「長期増分費用方式」を採用している。これに対して,NTTは実際の運用にかかったコストを回収できる「実際費用方式」に変更するように要望した。これらは,他事業者がNTT電話網を利用する際に支払う料金の算出に利用する。電話料金の原価と言える。

 同会合には,KDDIの小野寺正社長兼会長やソフトバンクの孫正義社長など大手通信事業者のトップが勢ぞろいして,意見陳述と議論が繰り広げられた(関連記事)。次回2月22日の会合も同様の議論が行われる予定。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション