写真1●リーダーでジーンズに付けたタグの情報を読み取ると、関連商品の在庫の有無が分かる 三越は1月31日、ジーンズ売り場におけるICタグを利用した実証実験の内容を公開した。ジーンズに13.56MHz帯のICタグを取り付け、それをリーダーで読み取って在庫情報を検索するシステムを構築。店員だけでなく、顧客自身が欲しい商品の在庫を探すことができるようにして、売り上げ増につなげるのが狙いである(写真1)。2006年度中の実導入を目指す。

 三越の取り組みは、経済産業省の平成17年度電子タグ実証実験の一環として実施しているもの。1月31日から2月13日までの2週間、銀座店2階にあるセレクトショップ「ニューヨークランウェイ」で行う。輸入販売しているジーンズ約5000点にICタグを張り付ける(写真2)。

写真2●ジーンズに付けたタグ 三越が開発したシステムは三つある。まず、納品代行業者と三越の店舗を結ぶ「次世代型SCMシステム」。ICタグに割り振ったIDと、商品コード(JANコード)を関連付けることで、ICタグを読み取れば検品できるようにする。納品代行業者がジーンズにICタグを取り付ける際に、ICタグのIDと商品コードを関連付けてシステムに登録する。三越の店舗で商品のICタグを読み取れば、その商品が納品されたことを確認できる。伝票を使った検品作業は必要なくなる。

 二つ目は、「次世代型在庫管理システム」。ジーンズに付けたICタグを使って、在庫情報を検索できるようにするものだ。顧客自身もこのシステムを使って、(1)ジーンズの陳列棚、(2)試着室、(3)店内中央に置かれたキオスク端末、の3カ所で商品の在庫を調べることができる。

写真3●電子荷札に商品名や価格を表示する (1)では、棚の内部にリーダーを組み込んで、陳列してある商品の種類と数を検知。棚の前面に貼り付けてある電子荷札に、商品名と価格、在庫の有無をサイズ別に表示する(写真3)。店舗に在庫がない場合はサイズを非表示に、棚にはないが店舗倉庫に在庫がある場合は緑色でサイズを表示する。この電子荷札は、電子ペーパーを使ったもので、サーバーから在庫情報を取得して自動的に表示内容を変更する。「限られたスペースで電源を必要としないことから、電子ペーパーを使うのが最適と考えた」(三越 商品システム推進部の西田雅一ゼネラルマネジャー)。

 (2)の試着室では、写真1のように備え付けのリーダーを使ってICタグを読み取ると、その場で「色違いの商品」などの在庫の有無がわかる。三越は、試着室内で在庫情報を表示する端末として、シスコシステムズのIP電話機「IP Phone 7970」を採用した(写真4)。写真4●試着室内でIP電話機に在庫情報を表示するネットワークに接続できる液晶付き端末として小型であることと、PoE(パワー・オーバー・イーサネット)に対応しているのでイーサネット・ケーブルだけを引けば試着室に端末を設置できるからだ。ゆくゆくは「IP電話を使って、試着室内から店員に商品を持ってきてもらうことも可能になる」(西田マネジャー)。ICタグの読み取りに使うリーダーとして、機器メーカーであるイイガが開発したPoE対応の製品を採用した。

 (3)の店内に設置した液晶画面付きのキオスク端末では、テーブル型のリーダーの上に商品を置くと、在庫はもちろん、おすすめ商品や商品ブランドなどの情報を閲覧できる(写真5)。

 三つ目は「次世代型顧客管理システム」。モニター50人にあらかじめ、315MHz帯のアクティブ・タグ(電源付きのICタグ)を配布(写真6)。写真5●キオスク端末の表示画面モニター顧客が来店すると、店内7カ所に設置したリーダーでどの顧客かを検知し、その顧客の購入履歴などを販売員が持つPDA(携帯情報端末)に無線LANを使って通知する。顧客が販売員を呼びたい場合は、アクティブ・タグに付いたボタンを押せばよい。

 店内に設置した7個のリーダー同士は、2.4GHz帯の無線を使ってアドホックに通信する。リーダーをケーブルでつなぐ必要はないため、店頭に導入しやすい。リーダーには、三点測量でアクティブ・タグの位置を調べる機能もあり、接客や動線の分析に役立てる。ただし顧客のプライバシに配慮し、アクティブ・タグにはIDしか記録しておらず、販売員のPDAにはその顧客のニックネームが表示される。

写真6●左から順に、リーダー、アクティブ・タグ、PDA ICタグは、商品販売時に回収して再利用する。システムの構築は、富士通、NTTコムウェア、シスコシステムズなどが手がけた。実験のコストに関しては明らかにしていない。