写真1:ミヤデラの宮寺力也社長
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写真2:作業内容が書かれたメール
写真2:作業内容が書かれたメール
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写真3:バーコード・リーダーで読み込んだ情報を携帯電話に転送
写真3:バーコード・リーダーで読み込んだ情報を携帯電話に転送
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 廃棄物の適正な処理に向けて,情報システムを活用する動きが始まっている。アスベスト調査・処理事業を手がけるミヤデラは,アスベスト運搬の追跡・記録システムを1月中旬から本格稼働させた。

 このシステムは,アスベストの収集・運搬事業者による不法投棄を防止するもの。核となるのが,ミヤデラが収集・運搬事業者のドライバーに携行させたGPS(全地球測位)機能付き携帯電話である。この携帯電話を使って,ミヤデラは工事現場におけるアスベストの収集,運搬,最終処理に至るプロセスを追跡する。

 「廃棄物の不法投棄がしばしば話題になるなか,間違いなくアスベストが運搬されているかをモニタリングしたり,適正に処理したことをどうやって証明するかに頭を悩ませていた」。ミヤデラの宮寺力也社長はこう話す(写真1)。「今回のシステムで,アスベストの適正な処理と,コンプライアンス(法令順守)の徹底を一気に実現できる」(宮寺社長)。

 システムの機能は大きく二つ。(1)ドライバーの作業内容を確認・記録する機能と,(2)車両が通った経路を確認する機能だ。

 (1)の機能は,アスベストの運搬を担当するドライバーが,携帯電話で作業報告を入力するもの。アスベストを工事現場で積み終わった段階や,アスベストの処理場に到着した段階で,ドライバーは携帯電話のデジタル・カメラを使ってその場面を撮影。あらかじめサーバー側から送信された作業指示のメールに画像を添付し返信することで,報告は完了する。

 返信すると,次の作業内容が書かれたメールが送信されてくる。「次は現場Aでアスベストを積む」,「積み終わったら処理場Bに運搬」といった具合である(写真2)。ドライバーはそれに従って動き,作業が完了した段階でそのメールに返信する。

 (2)の機能は,携帯電話に搭載したGPS機能を使い,走行状況を監視する。サーバー側でトラックが通過したルートを収集。ミヤデラや排出事業者(アスベストの処理を依頼した企業や組織)は,パソコンのWebブラウザに表示した地図上で,トラックの運行状況を常時確認できる。

 サーバー側では(1)と(2)の機能で蓄積したデータを加工し,排出事業者に提出する「完了報告書」を自動生成する。データは,法令で指定されているマニフェスト(産業廃棄物管理票)の作成にも流用できる。

間違いや不正に警告

 ミスや不正を防止するための機能も備える。携帯電話のGPS機能がそれを感知して,ドライバーやミヤデラ,排出事業者に警告メールを送信する。ドライバーが収集先でメールをきちんと返信せずに移動を始めた場合,あらかじめ指定された移動ルートを大きく外れそうになった場合,トラックで移動中であるにもかかわらず停止時間が長かった場合などだ。こうした動きは,不法投棄の予兆ともとらえられる。

 このシステムではアスベストを詰めた袋を個体管理するために,バーコードを採用している。ドライバーはアスベストの袋に貼り付けたバーコードを専用のリーダーで読み取り,携帯電話経由でシステムに登録する(写真3)。バーコード・リーダーと携帯電話間の通信には,Bluetoothを使用する。

 ドライバーは作業中,両手がふさがっていることが多い。携帯電話の画面を見ていなくても内容を確認できるように,このシステムでは携帯電話の音声合成機能を使う。メールを受信したり,作業に間違いが生じた場合,その内容を読み上げる。

増加するアスベスト処理に対処

 2005年6月,アスベストの使用企業であるクボタが,社員や関係会社社員(共に退職者を含む)79人が肺がんや中皮腫で亡くなっていたことを明らかにして以来,アスベストが急速にクローズアップされている。アスベスト処理件数が増加するなか,アスベストの高い危険性ゆえに廃棄方法への関心も高まっている。

 ミヤデラは,顧客である排出事業者の依頼に応じて,建物からアスベストを取り除いている。アスベストの運搬は専門の収集・運搬事業者に委託しているが,近年,不正な事業者による廃棄物の不法投棄が社会問題化しているだけに,ミヤデラの懸念は少なくない。

 不法投棄の典型的なケースの一つが,収集・運搬事業者が処理料金を“横取り”する形態だ。排出事業者が最終処理場に支払うべき処理料金は,危険な廃棄物ほど高い。不正な収集・運搬事業者は,処理料金を排出事業者から受け取ったまま,山奥などに不法投棄する。不法投棄した場合,収集・運搬事業者だけでなく,収集・運搬を依頼した事業者までも罰せられる。

 宮寺社長は「不法投棄が話題になっているがために,まっとうに処理している収集・運搬事業者は作業内容の開示方法に悩んでいる」と話す。システム構築と運用を担当しているアイティフォーの幸村豊流通システム事業部物流システム営業部長は,「今回のシステムは排出事業者,処理事業者,収集・運搬事業者の3者ともにメリットを享受できる」と話す。

 このシステムはアイティフォーが提供する廃棄物処理の追跡管理サービス「ECO(エコ)エリート」を使っている。提供の形式はASP。ECOエリートはアイティフォーとKDDIによる共同開発。使用している携帯電話はKDDIの「au」である。ミヤデラの宮寺社長は,「今後,環境問題やコンプライアンスに向けて,こうした情報システムを活用する企業が急増するだろう」と語る。