写真1 米AppleのSteve Jobs CEO(写真:三井 公一=サスラウ)。
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写真2 iPod用の外付けFMチューナー。iPodの液晶画面に選局などが表示される(写真:三井 公一=サスラウ)。
写真2 iPod用の外付けFMチューナー。iPodの液晶画面に選局などが表示される(写真:三井 公一=サスラウ)。
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写真3 ポッドキャストを自ら吹き込んでみせるJobs氏。
写真3 ポッドキャストを自ら吹き込んでみせるJobs氏。
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写真4 Webブラウザ上でAjaxにて動作する写真のスライド・ショー・アプリケーション。
写真4 Webブラウザ上でAjaxにて動作する写真のスライド・ショー・アプリケーション。
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写真5 Jobs氏(左)と米IntelのPaul Otellini CEO
写真5 Jobs氏(左)と米IntelのPaul Otellini CEO
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写真6 Jobs氏によるデモは全て,Intel製プロセッサ搭載iMacで行われていた(写真:三井 公一=サスラウ)。
写真6 Jobs氏によるデモは全て,Intel製プロセッサ搭載iMacで行われていた(写真:三井 公一=サスラウ)。
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写真7 MacBook Proの電源ケーブルは磁力で吸着する仕組み(写真:三井 公一=サスラウ)。
写真7 MacBook Proの電源ケーブルは磁力で吸着する仕組み(写真:三井 公一=サスラウ)。
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 米Apple社のCEOであるSteve Jobs氏は2006年1月10日(米国時間),「MacWorld Expo San Francisco 2006」の基調講演で,iPod用FMチューナーや個人用ソフトウエア「iLife '06」,低価格オフィス・ソフトの「iWork '06」,米Intel製プロセッサ搭載「iMac」「MacBook Pro」などを発表した(写真1)。その様子を詳しくレポートする。

 Jobs氏は冒頭,Appleの業績が好調であることをアピールした。同社の直営店Apple Storeには,ホリデー・シーズンの四半期(2005年10-12月期のことと思われる)に2600万人の顧客が訪れ,売り上げは10億ドルに達したという。

 携帯音楽プレイヤー「iPod」の売り上げも好調だ。2004年のホリデー・シーズンは420万台のiPodが売れたが,2005年のホリデー・シーズンには1400万台のiPodが売れた。2005年通年で見ると,iPodの販売台数は3200万台に達するという。

 iTunes Music Store(iTMS)の業績にも触れた。現在iTMSでは,1日当たり3百万曲の音楽がダウンロードされている。音楽配信ビジネス全体におけるiTMSのシェアは83%だ。また,2005年10月3日から始めたiPod向けの動画配信も好調で,これまでのダウンロード数は累計で800万を越えた。

 配信する動画の種類も増える。米ABCや米ESPNといったテレビ局との提携が発表されたほか,米NBCの人気コメディー番組「Saturday Night Live」なども配信される。

iPod用の外付けFMチューナーが登場

 iPodに関しては,新製品が1つ紹介された。iPod用のFMチューナーである。どの局を選択しているかなどが,iPodの大型の液晶画面に表示される(写真2)。

 次に紹介された製品は,個人用スイート製品である「iLife '06」である。

 写真管理ソフトの「iPhoto」はパフォーマンスが大きく向上し,管理できるデジタル写真の枚数が従来の2万5000枚から25万枚に増えた。また,写真をスライドショーのようにフルスクリーンで表示した状態で編集ができる「Full-screen editing」が可能になった。

 機能も強化された。1つは,美しいデザインのアルバムやカレンダーを作りやすくなったことである。もう1つは,Appleのインターネット・サービス「.Mac」との連携機能で,.Mac上の共有アルバムに写真をアップロードし,その共有アルバムの情報をRSSで他のユーザーに伝達する「Photocasting」という機能が追加された。

 初心者向け映像編集ソフトである「iMovie」の強化も目覚しい。最大のポイントは「Animated Themes for movies」という機能が追加されたことだ。これは,ユーザーが自分で取ったホーム・ビデオなどに対して,動きのある(アニメーション表示された)タイトルなどを付けられる機能である。まるで商用ビデオのような多彩なエフェクトを,テンプレートを使ってビデオに付加可能である。

ポッドキャストの作成機能も登場

 音楽編集ソフトの「GarageBand」は,ポッドキャストの編集ソフトに変ぼうした。自分で吹き込んだセリフに,Appleが提供するフリーの効果音(200個以上)やBGM(100曲以上)などを簡単に張り付けられる。これにより,商用ラジオのような雰囲気のポッドキャストを容易に作成できる。

 基調講演ではJobs氏が自ら「ハイ!僕はJobsです。Macのスーパー噂ポッドキャスティングへようこそ。僕は勤務先のAppleに凄い情報源を持っているんだ。今日はiPodの噂を紹介しよう。実は超ビッグなサイズのiPodが出るらしいんだって~」といったようなポッドキャストを吹き込んで,会場を沸かせていた(写真3)。

 iLifeの新しいアプリケーションであるWebサイト作成ソフト「iWeb」も登場した。iWebは.Macサービスと連携するもので,.Mac上のブログやアルバム・サイトの編集のほか,写真を多数張り込んだデザインの美しいWebサイトが簡単に作成できる。またAjaxを採用したWebブラウザで閲覧するフォト・スライドショー・サイトも作成可能である(写真4)。iLifeの価格は79ドルで,新しいMacには標準で添付される。

 個人用の簡易オフィス・ソフト「iWork」には,表計算ソフトが追加されることも明らかになった。価格は79ドルである。またiLife,iWorkとも,家族5人まで使用できる「Family Pack」が99ドルで提供される。

G5搭載のiMacもIntel製プロセッサへの移行で性能が2~3倍上昇

 続いては,Intel製プロセッサ搭載Macの登場だ。壇上には米IntelのCEOであるPaul Otellini氏が登場し,Intel製プロセッサ搭載Macの誕生を祝福した(写真5)。Jobs氏は「何千人もの技術者が協力し合うことで,Intel製プロセッサ搭載Macを開発できた」と,Intelとの協力関係が上手く行っていることをアピールした。

 最初に紹介されたIntel製プロセッサ搭載マシンは,液晶パネル一体型の「iMac」である。iMacは元々,性能の高い「PowerPC G5」が採用されている。それでも,2.1GHz動作のG5から2.0GHz動作の「Core Duoプロセッサ」へ移行しただけで,ベンチマークのテスト結果が,整数演算性能で3.2倍,浮動小数点演算性能で2.1倍に向上したという。Jobs氏はこのような結果が出たことに関して,「Intelのコンパイラのおかげ」とコメントした。

 本日発表されたiMacは2種類。価格は,17型ワイド液晶と1.83GHz動作のCore Duoプロセッサ,512MバイトのRAM,2層記録式の8倍速SuperDriveなどを内蔵するモデルが15万9800円(米国では1299ドル),20型ワイド液晶と2.0GHz動作のCore Duoプロセッサを搭載するモデルが20万9000円(米国では1699ドル)である。

 Intel製プロセッサ搭載Macの登場に伴い,Mac OS Xは「10.4.4」にアップデートされた。PowerPCからIntel製プロセッサへの移行に伴うアプリケーションの変更だが,今回発表したiLifeやiWorksのほか,プロ向け写真編集ソフトの「Aperture」やプロ向け動画編集ソフトの「FinalCut Pro」が,Intel製プロセッサ向けに発売された。PowerPC用アプリケーションをIntel製プロセッサ用に乗り換える「クロスグレード」は,49ドルで可能である。またDTPソフトの「Quark Express」も,Intel製プロセッサ用が登場する。

 既存のPowerPC用のアプリケーションも,「Rosetta」というエミュレーション機構を使うことにより,Intel製プロセッサ搭載Macで動作する。基調講演ではPowerPC用の「Microsoft Office」や「Adobe Photoshop」を,新型iMacで動かして見せた。しかも,これまでJobs氏が見せたすべてのデモンストレーションを,新型iMacを用いて実施していたと述べた(写真6)。新型iMacは同日から発売することも明らかにした。

2006年内にIntel製プロセッサに完全移行

 Jobs氏はまた,Intel製プロセッサへの完全移行時期を,従来の2007年内から2006年内に早めたと発表した。Intel製プロセッサを支持する理由の1つが,ワット当たりのパフォーマンスの高さである。消費電力1ワット当たりの実行性能について,PowerPC G4を「0.27」とすると,PowerPC G5は「0.23」と悪くなる。しかし,Core Duoプロセッサの場合には,その値が「1.05」になるという。

「MacBook Pro」は性能が4~5倍に向上

 消費電力が少ないという話題になれば,次に発表される製品は決まっている。ノート・パソコン「MacBook Pro」の登場である。MacBook Proは,PowerPC G4からCore Duoプロセッサへの移行であるため,パフォーマンスの向上幅はより大きい。整数演算性能は4.5倍,浮動小数点演算性能は5.2倍になるという。

 MacBook Proは,これまで登場したMacのノート・パソコンの中で最も薄い。また,搭載する15.4型ワイド液晶ディスプレイは,Appleのハイエンド液晶ディスプレイ「Cinema Display」と同じ輝度(一平方メートル当たり300cd)であるとしている。そして液晶の上部には,ビデオ・チャット用のカメラが搭載されている。

 変わったところでは,電源ケーブルの接続部分にも工夫が凝らされた。「MagSafe」という名称で,電気ポットの電源ケーブル接続部のように,電源ケーブルは磁力によって本体に固定される(写真7)。従来の電源ケーブルは,抜ける際に余計な力がかかると接続部が破損することがあった。磁力でくっついているMagSafeであれば,接続部が壊れることはない。

 価格は,1.67GHz動作のCore Duoプロセッサと512MバイトのRAM,SuperDriveを搭載するモデルが24万9800円(米国では1999ドル),1.83GHz動作のCore Duoプロセッサと1GバイトのRAMを搭載するモデルが30万9800円(米国では2499ドル)である。いずれも重量は2.45kg。バッテリでの連続駆動時間は公表されていない。

 Jobs氏は基調講演の最後に,Appleが2006年で創業30周年を迎えたことに触れた。Appleは,iPodのおかげで好調な業績に支えられている中で,PowerPCからIntel製プロセッサへのプラットフォーム移行という一大事業を成し遂げる必要がある。Appleが発展し続ける上で,2006年が極めて重要な年になることは間違いないだろう。

(写真撮影は,三井 公一=サスラウおよび編集部)