米MicrosoftのBill Gates会長兼チーフ・ソフトウエア・アーキテクトは2006年1月4日(米国時間),「2006 International CES」で基調講演を行った。2006年はMicrosoftにとって「Windows Vista」や「Office 12」といった大型製品の発売が控える重要な1年になる。そのためかGates会長の基調講演も,Windows Vistaや新サービスの紹介を中心とした「質実剛健」なものだった。
講演の見所は,(1)Windows Vistaのデモ,(2)米MTV Networksと提携して提供する新しい音楽配信サービス「URGE」,(3)Windows Mobileを搭載したIP電話対応携帯電話機やMedia Centerパソコンと連携する周辺機器の紹介,(4)Windows VistaをベースにしたMedia CenterパソコンによるHD DVDの再生デモ,(5)Xbox 360用の外付けHD DVDドライブの発表---だった。講演について順を追ってレポートしよう。
Gates会長はまず,Microsoftが考える近未来「デジタル・ライフスタイル」「デジタル・ワークスタイル」に関して説明した。近い将来,人々の生活のあらゆる場面で情報がデジタル化され,電話をしたり,音楽を聴いたり,テレビを見たりするのが,今まで以上に便利になると熱弁した(写真1)。Gates会長は2000年からの10年間を「デジタル・ディケイド」と呼んでおり,「あと4年で,デジタル・ライフスタイルが現実のものになる」と強調した。
ただしそのような世界では,人々は数多くのコンピュータや情報機器を扱うことになる。それらの使い方は極力シンプルであるのが望ましい。Gates会長は「パソコンも携帯電話もゲーム機も,単一のインタフェースであるのが最もシンプルだ」と,あらゆる情報機器にWindowsのユーザー・インタフェースを乗せるのが良いという持論を強調した。
Windows Vistaのデモが進化
続いて実施したのがWindows Vistaのデモだ。Windows Vistaにおいて,ユーザーがわい雑さから解放される,セキュリティが強化される,より良いユーザー体験が得られる---という3点が強調された。
わい雑さからの解放とは,ユーザー・インタフェースの改善である。Windows Vistaでは写真2のように,開いているウインドウを立体的に整理できるようになるほか,Internet Explorer 7にはタブ・ブラウジング機能が追加される。しかも開いている複数のWebページをMac OS Xの「Expose(エクスポゼ)」のように一覧表示できるようにする(写真3)。以前のVistaベータ版では削除されていた「サイド・バー」も復活し,「ガジェット」と呼ぶミニ・プログラムを起動できるようになる(写真4)。
セキュリティ強化に関しては,ペアレンタル・ロックの画面などを紹介した(写真5)。子供が使うパソコンに対して,使用時間や利用できるアプリケーションを制限したりできるようにする。
ユーザー体験の変化については,MicrosoftがMS-DOS時代から販売している「マイクロソフト・フライトシミュレータ」を例に出して説明した。MS-DOS世代のフライトシミュレータ(写真6)やWindows 3.0時代(写真7)とWindows Vista世代のフライト・シミュレータ(写真8)を比較して,変化の大きさを強調したのだ。
上書きされたファイルが元に戻る
変化があるのはゲームだけではない。OSの画像ビューアなども機能が強化される。写真9は,写真のサムネイルにポインタが置かれると,自動的にその写真の詳細情報がポップアップする様子を示したデモである。またスライド・ショーの機能も強化され,写真だけでなく動画もスライド・ショーの対象になる。
Windows Vistaでは,ストレージ機能も強化され,上書きしたファイルをいつでも元の状態に戻せるようになるという。編集後もオリジナルのデータが残っており,「何年後であっても元の状態に戻せる」(Microsoft)という。
Vista用の「Windows Media Player 11」をデモ
続いて,Windows Vista用のメディア・プレイヤである「Windows Media Player 11」がデモされた。Windows Media Player 11では,ライブラリ機能が強化され,1万曲が登録されたような状態でも,スムーズに曲やアルバムの検索ができる。
またWindows Media Player 11では,米MTV Networksと提携した新しい音楽配信サービス「URGE」が提供される。URGEでは200万曲の楽曲が配信される予定であるほか,200万曲の検索も,ローカルにデータベースがあるかのようにスムーズに実行できるという(写真10)。またCDクオリティの音楽ラジオも聞ける。
IP電話機能を備えたWindows Mobile携帯電話機が登場
Gates会長は,特定用途向けの情報端末でWindowsの採用が進んでいることにも触れた。Windows Mobileを搭載する携帯電話機の種類は100種類以上になっており,2006年には500万台が出荷される見込みであるという。バリエーションも豊富になった。オランダRoyal Philips Electronicsやユニデンが,IP電話機能を搭載したWindows Mobile携帯電話機をリリースする予定であることも明らかになった。このほか,Media Centerパソコンと連携する「PlaysForSure」対応に対応した動画再生型の東芝「gigabeat」なども紹介された。
家電展示会のCESだけに,Media Centerパソコンに関しては特に念入りに紹介があった。MicrosoftのWebサイト上でのサービス「Windows Live」もMedia Centerパソコンに対応する予定で,テレビ放送やVOD(ビデオ・オン・デマンド)の番組からユーザーの好みにあった番組を自動的に探すサービスなどがWindows Liveで提供される。ユーザー・インタフェースは少し変わっていて,「Windows Liveメッセンジャー」を使って,サーバー側の自動応答サービスと会話をしながら好みの番組を探すという(写真11)。
HD DVDの「マネージド・コピー」がお披露目
Windows Vista世代のMedia Centerパソコンを使った,HD DVDの再生デモも実施された。MicrosoftがHD DVDを支持した理由の1つが,HD DVDには「マネージド・コピー」という著作権保護をしたままHD DVDのコンテンツをハードディスクにコピーする機能が備えられていることだった。基調講演では,Media Centerパソコンでマネージド・コピーを実行する様子をデモした(写真12)。
このほか基調講演では,Xbox 360用の外付けHD DVDドライブが発売されることなどが発表された。これについては別のレポートを参照してほしい。