紳士服販売大手の青山商事は12月1日、ユビキタス・コンピューティング関連の技術開発を進めるYRPユビキタス・ネットワーキング研究所と共同でICタグを使った実証実験を2006年2月から実施すると発表した。同じタグを使って、国際流通実験と店舗実験の二つを実施する。

 「これまでICタグを使い、店舗内に閉じた実験をしてきた。これからは生産から販売まで至るところで利用し、業務の効率化や顧客満足度の向上を目指す」と、青山商事の青山理 代表取締役社長は話す。同社は実験結果を踏まえ、2007年をメドに実用化していきたいという。

写真1●ucodeタグ 国際流通実験は、来年2月17日から1000着分のスーツを対象に実施する。この実験で対象とする流通経路は、中国の生産工場から中国内の流通センターを経て、日本までコンテナ船で輸送。さらに、日本のコンテナ・ヤードから物流拠点、店舗に至るというもの。中国の工場で、電源を内蔵しないパッシブ型のICタグ「ucodeタグ(写真1)」をスーツの袖に付けてから出荷する。

 スーツ1着ごとに付けたucodeタグには、ID情報とともに、スーツがどの工場で生産されたか、生産から店舗に至るまでの工程情報などを書き込む。日本の物流拠点では、ucodeタグに書き込まれた情報を、どの店舗に配送するかといった仕分け作業に利用する。

 商品を運ぶ際に利用するハンガーには、電源を内蔵するアクティブ型のICタグ「Dice(写真2)」を取り付ける。Diceはセンサーも備えており、コンテナで輸送中の温度や湿度、衝撃などを測定、記録する。商品が日本に到着した後、スーツがコンテナのどの位置にあったかに応じて、アイロンを掛け直すなどの作業が必要となる。Diceで得た情報を基に、その作業が必要かどうかを判断する。

写真2●Dice 店舗実験は、来年3月9日から東京の池袋東口総本店で開始する。最初はスーツ400着を対象とする。ここでは、店舗に到着したスーツのucodeタグを読み取って検品作業を効率化するのに加えて、店舗内に設置する端末や携帯端末を使って、顧客に対してスーツの素材情報やスーツに合うワイシャツやネクタイなどのお勧め情報を提供する。

 青山商事は店舗を急速に拡大しているため、新規に採用した従業員が多い。そうした人たちは商品知識が少ないので、売り逃しが発生する恐れがある。そこで従業員にも携帯端末を持たせて、商品のタグを読み取れば関連するお勧め情報を表示できるようにする。

 「今回の実証実験のように、実用を前提に一つのucodeタグを多目的に利用するのは珍しい」と、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長を務める坂村健 東京大学教授は話す。スーツを購入後に、タグをはずして持っていくと前回購入したスーツの情報を表示する、といったサービスも検討している。ただしプライバシ問題に配慮して、購入後にタグを取りはずすことも可能にする予定だ。