「国内最速はもちろん、来夏の世界ランキングでトップ5入りを目指す」——。東京工業大学の松岡聡教授は11月29日、来年4月に稼働予定のスーパーコンピュータに関する説明会でこう宣言した。このスパコンでは、Linpackベンチマークによるピーク性能で110テラFLOPS、実効性能で65テラ~70テラFLOPSの実現を目標としている。

 今回の会見では、東工大が11月16日に発表した計画(発表資料)の詳細を説明した。米サン・マイクロシステムズのLinuxサーバーによる大規模クラスタを中心としたマシンで、システム構築はNECに依頼し、4年間のリース契約を結ぶ。同大の発表資料には「2006年3月に85テラFLOPS、晩春までに100テラFLOPS以上」とあるが、松岡教授は「来年4月には110テラFLOPSのピーク性能を実現したい」と意気込む。

 世界最速のスパコンを決める「TOP500プロジェクト」は、毎年6月と11月にベンチマーク結果を公開している。2005年11月現在のランキング(関連記事)にあてはめると、東工大の次世代機は、米エネルギー省ローレンス・リバモア国立研究所のBlueGene/L(280.60テラFLOPS)、IBMトーマス・ワトソン研究所のWatson Blue Gene(91.29テラFLOPS)に続く第3位に相当する。東工大は、来年6月に公開予定の次回ランキングで世界のトップ5入りを狙う。

 東工大はこのスパコン導入を機に、若手人材の育成に力を入れていく。「以前のスパコンは特殊なハードとプログラミング技法を必要としたため、なかなか人材が育たないのが悩みだった。我々は先端的な研究の一方で、新入生のうちから積極的にスパコンを使わせることで、シミュレーション科学に触れる機会を与えたい」(松岡教授)。今後、企業内に同様のスパコンが普及していくことを見越して、バイオや自動車などの産業に必要な人材を供給していく。x86アーキテクチャとLinuxを選んだのも、利用者がパソコンからステップアップすることを考慮したものという。

 同機は、主に二つの計算ユニットから成る。第1のユニットは、サンが近く発表予定のラックマウント・サーバー655台で構成し、ピーク性能は50テラFLOPSを予定している。それぞれのノードにデュアルコアのOpteron2.4GHzまたは2.6GHzを8個ずつ搭載。合計で5240個のプロセサと21.4テラバイトのメモリーを備え、SUSE Linuxで動作する。

 第2のユニットは、英クリアスピード製の専用計算機「ClearSpeed CSX600」。ピーク性能は60テラFLOPSである。専用計算機とは、多数のコアを搭載した専用プロセサを使い、蛋白質解析などの用途で高い性能を発揮するスパコンの一種。今回のマシンは600枚のボードで構成され、それぞれに96個のコアを搭載したプロセサを2個ずつ搭載する計画である。前述のOpteron搭載クラスタのアクセラレータとしても機能する。

 それぞれのノードや計算ユニットを結ぶ光ファイバ網として、InfiniBandを使う。国立情報学研究所の「超高速コンピュータ網形成プロジェクト」(NAREGI)が開発したグリッド・コンピューティング用ミドルウエアで接続する。1.1ペタバイトのストレージも用意する。詳細は未定だが、既にあるベクトル型アプリケーション用に、NECの「SX-8」を少数導入することも検討している。同大学は構築予算を明らかにしていないが、合計で数十億円になると見られる。稼働後も、随時増強を施していく計画である。

 会見に同席したサン・マイクロシステムズ日本法人のダン・ミラー社長は、「このプロジェクトはサンのHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)事業にとって大きな一歩だ。今後は東工大のマシンを手本にしたより小規模のモデルを、世界中の企業や大学で企業へと売り込んでいきたい」と語った。なお国内では、高エネルギー加速器研究機構(KEK)も、来年3月に57.3テラFLOPSの米IBM製スパコンを稼働させる計画を進めている。