■ターミナル・サービス拡張ソフト「Citrix Presentation Server」で知られる米Citrix SystemsのMark B. Templeton社長兼CEOが来日した。日本では2005年,同社のシン・クライアント・ソリューションは「情報漏えい対策」として注目を集めている。Templeton CEOに,製品ロードマップなどシン・クライアント・ソリューションの今後についてインタビューした。
■同氏によると日本国内での売り上げは,年率20%増と好調だという。「情報漏えい対策」偏重にあるなか,「シン・クライアント・ソリューションの本当の価値は,『情報漏えい防止』ではなく『情報活用』にある」と指摘する。
————Citrixはシン・クライアントを「(情報への)アクセス」のソリューションと位置付けています。しかし日本での認識は「情報漏えい防止対策」であり,「ブロック」のソリューションだと認識されています。これについてどう感じていますか。
[Mark B. Templeton CEO]「悪い奴ら(バッド・ガイ)」をブロックすることと,「良い人(グッド・ガイ)」にアクセスを提供することは表裏一体です。よってCitrix製品が「情報へのアクセス手段を管理する最良のソリューション」と認識されていることに変わりはないと思います。
もっとも,ブロックの側面だけが注目されている日本の状況は,一時的なものだと感じています。「適切な人に情報へのアクセスを提供して,情報活用を促進する」ことは,ビジネスの成長に直結します。今後日本でも,「ビジネスを成長させるためのアクセス戦略」への認識が高まると考えています。
————米Microsoftの次期サーバーOS「Longhorn Server」(開発コード名)では,ターミナル・サービスの機能が強化されます。Citrixは常に,OSの標準機能よりも優れた機能を提供する必要があります。どのようなプランを考えていますか?
[Templeton CEO]私たちは現在「Constellation」というプロジェクトを進めています。これはLonghorn Server用のCitrix Presentation Serverにおける,アプリケーション仮想化技術の開発プロジェクトです。ポイントは6点あります。
第1点は「自律型負荷管理機能」です。これは,ユーザー・エクスペリエンスが最適化されるよう,サーバーのロード・バランシングを自律的に行う機能です。この機能を支えるのが,第2点の技術「ヘルス・モニタリング」です。これは,サーバーの負荷状態を,常に心電図を付けているかのようにモニタリングする機能であり,サーバーの障害などを予見したり,障害の切り分けたりすることが可能になります。
第3点は「ポリシー・ベースのセッション・レコーディング」です。ターミナル・サービスのセッションをリアルタイムに記録する機能です。法令順守やセキュリティ,サポート,システム管理のために,セッション管理が必要になっています。
第4点は「ユーザー・エクスペリエンス・モニタリング」です。これは,ユーザーが感じているターミナル・サービスのパフォーマンスをリアルタイムで記録する機能です。
第5点は「ダイナミック・スケーリング」です。これは,ターミナル・サーバーを追加した場合でも,システムの再起動が不要になる機能です。アプリケーションの仮想化によって実現します。
第6点はグラフィックスの機能強化です。OpenGLを使うアプリケーションなどが,より高速に利用できるようになります。
————今日(11月29日)Citrixは,NTTドコモのPDA型携帯電話機「M1000」向けのターミナル・サービス・クライアントの提供を発表しました。このような取り組みは,今後も拡大する予定ですか。また米国での実績はどうですか。
[Templeton CEO]実は,携帯電話機用クライアントの提供は,日本だけで行っていることです。というのも,日本以外の国では高速無線通信のインフラが整備されていないので,ターミナル・サービスの利用が難しいからです。日本以外では,PDA向けにクライアントを提供しています。
また携帯電話機やPDAでのターミナル・サービスの利用は,特定のアプリケーションや企業のみをターゲットとしたソリューションになります。携帯性が特に重視される業務——例えば,警察や医療分野です。スカンジナビア諸国や英国で,これらの分野でPDA用のターミナル・サービス・クライアントが使われています。
————現在Citrixは,シングル・サインオン製品である「Citrix Password Manager」に力を入れています。しかし日本では,ユーザーの利便性を上げるソリューションは,非常に軽視されがちです。苦戦するのではないでしょうか。
[Templeton CEO]シングル・サインオンは,システム管理部門にとってもエンドユーザーにとっても価値のある「Win-Win」のプロジェクトです。ユーザーは「パスワードは1つだけ覚えればよい」ということで利便性が大きくあがりますし,システム管理部門にとっては,ヘルプデスクのコスト削減とセキュリティの強化が見込めます。
実は,ヘルプデスクに対する問い合わせで特に多いのが,パスワードの再発行に関する問い合わせです。まず,この業務の効率化ができます。
またパスワードの数が多いと,エンドユーザーはパスワードを紙に書いて,机に起きっぱなしにしたり,モニターに張り付けたりしだします。シングル・サインオンを導入すれば,こういったセキュリティ問題が解決できるようになるでしょう。