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 東京大学の染谷隆夫助教授と桜井貴康教授らのグループは2005年11月24日,薄くて曲げられる点字ディスプレイを開発したと発表した。大きさは6cm角で厚さは約1mm。六つの点からなる任意の点字を24文字表示できる。点字の突起を形成する機構として,電圧をかけると屈曲するプラスチックを採用することで薄型化を実現。これまで弁当箱大の寸法だった点字ディスプレイをクレジットカード大にまで小さくできるという。

 今回試作した点字ディスプレイは,格子状に配置した有機トランジスタ(有機TFT),突起を生成するアクチュエータ,保護用のシリコンゴムの3層から成る。アクチュエータはイオン導電性高分子材料を金属でメッキした構造。電極に電圧をかけるとマイナス側に水分子が集まり膨張,プラス側に向かって屈曲する。これをフォークのような短冊状に加工し,先端に半球状のプラスチックを載せる。所望の位置の有機TFTをオンにしてアクチュエータに数ボルトの電圧をかけると,半球が持ち上がり突起となる。突起を生成するときに消費する電力は「1mW以下」(東京大学国際・産学協同研究センターの桜井教授)。生成した突起は「電流の漏れがあるので約1分で元に戻る」(東京大学大学院光学系研究科の染谷助教授)。

 従来の点字ディスプレイは,電圧をかけると膨張する圧電素子(ピエゾ素子)やコイルの電磁気によって直線運動を生むソレノイドをアクチュエータとして利用する。両者とも1mm厚程度にまで薄型化するのは難しい。染谷助教授らは産業技術総合研究所が開発した導電性ポリマーのアクチュエータに着目。「発生する力は市販の点字ディスプレイで使われているアクチュエータに比べると3分の1から半分程度だが,視覚障害者の可読性は確保できる」(桜井教授)。

 染谷助教授らの研究グループは,2003年に圧力センサー,2004年にスキャナをシート状の有機半導体で試作した。今回の点字ディスプレイでは,アクチュエータ内の水分から有機TFTを守る技術や,有機トランジスタの回路構成を改良したという。点字ディスプレイの詳細は2005年12月5日に米ワシントンで開催されるIEDM(国際電子デバイス会議),および2006年2月5日から米サンフランシスコで開催されるISSCC(国際固体回路会議)で発表する予定だという。

東京大学
産業技術総合研究所