米国時間の11月21日の夜遅く,数千の販売店が開業して,全米の消費者にXbox 360ビデオ・ゲーム機を売り始める。このXbox 360の出荷イベントは,米MicrosoftにおいてWindows 95以来,最も成功したものになるだろう。まだ試してもいない未知の娯楽機器に数百ドル払うために,多くの人々が寒い中を並んで待つはずだ。だが,これはマーケティングが大成功を収めたに過ぎないのではないか。同ゲーム機の早期レビューは「良い(good)」という評価に過ぎず「すばらしい(great)」には達しなかった。さらに,注目を浴びるキラー・ゲームもないと言われている。同ゲーム機は,2006年には悲惨な状況になるのではないだろうか。

 出荷開始時点の状況はあまり芳しくない。本体と同時に出荷される18のゲーム・ソフトの多くは,ほかのゲーム機で既にリリース済み,もしくはその続編である。これらは,ほかのゲーム機のソフトとゲームのやり方やグラフィックスが変わり映えしない。Xbox 360が現在のほかのゲーム・システムをはるかに凌駕するHDTV(高精細テレビ)レベルのグラフィックス表示能力を備える点を考慮すると,これは不思議ともいえる。「Quake 4」や「Call of Duty 2」などいくつかのPCゲームはうまくXbox 360に移植されている。これらソフトのグラフィックスは多少明るくなっている点を除いてオリジナルのPC版を忠実に再現している。ただし,PCでゲーマーが使用しているマウスやキーボードと比較すると,Xbox 360のコントローラは,こうしたFPS(一人称シューティング)型のゲームで必要となる正確な操作に適しているとはいえない。

 多くのレビュー記事は,Xboxが機能的には優れているもののエキサイティングではなく,多くの消費者にとって高価過ぎるとしている。Xbox 360のプレミアム・パッケージは400ドルもする。一方,ハードディスクを外したコア・システム・モデルでは,高価なオプションを追加しない限りゲームをセーブできないし,オンライン・サービスへのアクセスも制限される。さらに付け加えよう。Xbox 360のユーザーは初代Xbox用のゲーム・ソフトの約4分の1をプレイできる。それを考えても,XboxにせよXbox 360にせよ,本当に競争力のあるゲームは一つもない。現在あるソフトでは,普通のゲーマーをエキサイトさせるほど,ビジュアル面で既存のゲーム機に差をつけられないのである。

 ではXbox 360のグラフィックス能力を誇示するような目玉となるキラー・ゲームはどこにあるのか。「Final Fantasy XI」「Gears of War」「Unreal Tournament 2007」——といった第一線級のゲーム・ソフトは2006年になるまで出荷されない。さらに,最も待ち望まれている「Halo 360」はいまだに謎に包まれている。Microsoftとゲーム開発元であるBungieは,今後のHaloの販売権について現時点で議論することを拒否しており,次期タイトルは出荷準備ができたときに出荷するとしか語っていない。このタイトルはXboxと同時に出荷すべきだったと私は思う。2006年中ごろにHaloを出荷しても,今出すほど多くの人々に熱狂的に迎えられることはないだろう。

 Xbox 360の出荷から2005年のクリスマスまでの販売が好調な時期が過ぎると,Microsoftはもはや次世代ゲーム市場で独走できないことが分かるだろう。ソニーと任天堂は,それぞれPlayStation 3とRevolutionの出荷に向けて加速する。これらのメーカーはMicrosoftを打ち負かすべく自分に適した市場を作り上げようとするはずだ。Sonyには過去10年間にわたってビデオ・ゲーム市場の主導権を握ってきた実績があり,サード・パーティのサポートも充実している点で,最も良い位置を占めている。もしSonyが今後提供するPlayStation 3においてXbox 360を性能面で打ち負かせれば(その可能性は現実にある),Microsoftが2006年にリードを保つのは難しくなる。

 結局,ビデオ・ゲームはほかの娯楽と同じくコンテンツがすべてである。Xbox 360は,競合製品を打ち負かすだけの技術的な優位性を備えているが,その点は初代Xboxも同じだ。現時点でXbox 360向けのソフトが,ゲーム機自体の技術的な優位性を市場の主導権に結びつけるのに十分かどうかは分からない。