日経BPガバメントテクノロジー、日経パソコンが2005年11月18日に開催した「第7回 全国電子自治体会議」で、3つの先進自治体が登壇し、住民満足度を高めるための取り組みについて講演した。静岡県浜松市は市民から寄せられた意見をデータベース化した「市民の声システム」を、京都市と神奈川県横浜市は、住民からの各種問い合わせを一元的に電話で受け付ける「コールセンター」を紹介した。

 浜松市は2005年7月、12市町村が合併し人口約80万人の新「浜松市」として生まれ変わったばかり。企画部情報政策課 主幹 情報化推進グループ長の山下堅司氏は、旧市町村がブドウの房のようにつながった分権制を実現したいと発言。合併しても、地域に密着したきめ細かい行政サービスを提供できる電子自治体を作ることを目指すとした。それを可能にする一つの手段として、2002年に構築した「市民の声システム」を挙げた。同システムは、住民からの電話やファクス、手紙、市のWebページに書かれた意見などをデータベースにその都度登録し一元管理するもの。同システムを使うことで、住民のニーズを行政が吸い上げ、これを踏まえた的確な施策展開ができるとした。「データベースは全職員が参照できるので、問い合わせの電話を受けたある課の職員が、担当外の質問に対しても検索しその場答えられるようになった」と、市民サービスの品質向上にも寄与していると評価した。

 京都市は、2006年1月にコールセンターを開設すべく準備に追われている真っ最中。コールセンターとは、専用の電話番号に住民が電話をかけるとその場でさまざまな質問に答えてくれるサービスである。人件費などのコスト削減を削減するため、専門業者に委託するのが通常で、京都市の場合も運営はNTT西日本などが担当する。コールセンターを導入する理由について総合企画局市長公室広報課担当係長の石川哲也氏は、「コンビニエンスストアや銀行のサービスと、市役所のサービスを比べると、明らかに品質に差がある。この解消が急務だった」と説明。住民が抱える疑問を、ワンストップ(1カ所でなんでも解決できる)、ノンストップ(いつでも営業している)、マルチアクセス(電話、ファクス、インターネットなど、さまざまな手段が利用できる)で解消するものとして、コールセンターの開設を決めた。午前8時から午後9時まで、訓練を受けた5名のオペレーターが年中無休で住民の疑問に答える予定。毎月5000件の問い合わせがあると同市では見込んでいる。

 一方、2005年4月にコールセンターを稼働済みの横浜市は、毎日約350件の問い合わせを受け付けている。「延べ件数が10万件を突破するのも目前」(総務局IT活用推進部電子市役所推進担当課長の齋田豊氏)と、市民の間では好評のようだ。特に庁舎が閉まっている時間帯や休日の問い合わせが、全体の半数を占めているという。運用開始からの8カ月間を振り返り、大きく4つの効果があったと齋田氏は分析している。一つは、市民サービスの品質の向上。これまで市民から市役所あてに問い合わせの電話がかかってきても、担当部署が違うなどの理由でたらい回しにするケースがままあった。コールセンター開設後は、84%の質問について委託業者のオペレーターが直接回答しているという。ほかにも、「電話応対の減少などによる職員の業務効率の向上」「問い合わせ窓口を一本化したことによるコスト削減」「市民の声を施策へ反映しやすくなった」という効果があったとした。

 講演に続いて、日経BPガバメントテクノロジーの黒田隆明編集長の司会で、3氏が参加するQ&A形式のパネルディスカッションを実施した。中心になったテーマは、コールセンターの効用について。多くの自治体は、コールセンターに寄せられた意見を集約し分析することで、住民のニーズを的確に踏まえた施策展開が容易になることを期待する。しかし現実には、「住民から建設的な意見が寄せられないと施策に生かしにくい」「住民からの問い合わせをデータベースに登録しない職員がいる」といった課題も生じている。こうした現状に対し、「職員の教育や住民の協力が必要」という点で、先進自治体の担当者の意見が一致した。