トヨタ自動車第1電子技術部部長の林和彦氏
トヨタ自動車第1電子技術部部長の林和彦氏
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 クルマの情報化はとどまるところを知らない。車内LANが通り,電子制御ユニット(ECU)など各種電子装置がつながり始めた今,そのネットワークはさらに広がる。「クルマとクルマ」「クルマと社会」をつなぐアプリケーションが続々と誕生する---こうしたクルマの未来をトヨタ自動車が語った。

 組み込み技術をテーマにした展示会「ET(Embedded Technology)2005」(http://www.jasa.or.jp/et/top.html)におけるトヨタ自動車の基調講演には,1000人の聴衆が足を運んだ。壇上に立った同社第1電子技術部 部長の林 和彦 氏は,クルマの安全性・利便性を高める上でも,環境に優しい技術を実現する上でもIT技術が欠かせないと力説した。一般に,クルマの基本機能は「走る」「曲がる」「止まる」の三つと言われる。最近,トヨタの社内では,「つながる(IT)」ことが4番目の基本機能として認知されるようになったという。

 では,「つながる」ことによって,どのようなアプリケーションを想定しているのか。駐車場の空き状況や渋滞情報,レストランの最新情報など,これまで「ITS」あるいは「テレマティクス」といった言葉に代表されていたのとは別のサービスに言及した。その1つが地図情報および位置情報の「高精度化」である。道路のどのレーンを走行しているかを把握したり,道路標識の情報を把握することで一時停止が必要な交差点かをカーナビが認識できるようにする。実験結果によれば,カーナビが運転手に一時停止を呼びかけることにより,減速ではなく完全に停止する比率が通常の36%から59%に向上したという。

 さらに「高精度化」した地図を「高鮮度化」する計画だ。つまり,最新の地図データに自動更新するための技術を導入し,地図の鮮度を高めたいとする。そのために,最新の地図データとの差分を抽出し,差分データだけをリアルタイムに配信する技術を開発中だ。この仕組みを応用し,地図データのみならず,プログラム自体を配信することによって,ソフトウエアの修正や新機能の追加に利用することも視野に入れている。

 こうした「つながるクルマ」を実現する上で中核的な役割と果たすのがカーナビである。そのカーナビはこれまで,AVというオプション機能の延長という位置づけだったが,今では車両制御システムというコア技術と認められるようになったという。そのカーナビの性能向上に,前向きな姿勢を見せる。ハード・ディスク装置の大容量化やフラッシュ・メモリの採用を押し進める。将来は,4個のCPUコアを1チップに実装したマルチコア型のCPUを採用することを検討している。消費電力の増大を納めるためにも,動作周波数をこれ以上高めるわけにはいかない。それでも性能を高めるには,マルチコアの採用が必須とみている。

 前向きな夢を語る一方で,現実の悩ましい問題点にも言及した。ソフトウエア開発効率をいかに高めるかという点である。クルマのソフトウエア規模は増大の一途をたどっている。同社の試算によれば,カーナビのソフトウエア規模は2009年に90Mバイトに達する。やっかいなのは,ソフトウエアが構造化設計されていない点にある。「つぎたしで開発してきたツケが回ってきた。20%の機能拡張のために,全体の70%に手を入れる必要がある。これが実状」と林氏は嘆く。同社は,こうした開発体制をカイゼンすべく,ソフトウエアの開発方法を抜本的に見直している。ソフトウエア部品間のインタフェースを事細かに定義し,異なる企業から調達した部品や過去のソフトウエア資産と組み合わせやすくする。2006年には,この体制によるソフトウエア開発を幅広く展開するメドが立ったという。その効果が実際に現れた時,クルマの電子化はさらに加速することであろう。

【訂正】
初出時,「2007年ころには,4個のCPUコアを1チップに実装したマルチコア型のCPUを採用することを検討している」とありましたのは,「将来は,4個のCPUコアを1チップに実装したマルチコア型のCPUを採用することを検討している」の誤りです。お詫びして訂正します。(2005年11月21日)