写真1 会場の様子
写真1 会場の様子
[画像のクリックで拡大表示]
写真2 走行中のロボット
写真2 走行中のロボット
[画像のクリックで拡大表示]
写真3 「ムンムン」チームのみなさん
写真3 「ムンムン」チームのみなさん
[画像のクリックで拡大表示]

 同一のハードウェアを使い,組み込んだソフトウェアの出来で勝負する。日本システム協会(JASA)が主催する「ETソフトウェアデザインロボコン(ETロボコン)」は,数あるロボット・コンテストの中でもやや異色の存在だ。デンマークLEGO社の「LEGO」で組み立てたロボットに自作のソフトウェアを載せ,走行タイムを競う。ソフトウェアの設計情報であるモデルの出来も審査の対象となる。2005年11月16日,本大会(2005年7月開催,参加56チーム)で優秀な成績を修めたチームが集まり,「ETロボコン チャンピオンシップ大会」が開かれた。高校生から企業に所属する技術者まで,チャンピオンシップ大会らしいレベルの高い争いを繰り広げた。会場は,「組込み総合技術展(Embedded Technology 2005)」開催中のパシフィコ横浜。多数の来場者がコースの周りに集まり,熱戦を見守った(写真1)。

 チャンピオンシップ大会には,本大会で走行タイムとモデルの各部門で優秀な成績を修めた20チームが参加した。黒色に塗られたコースを2周し,どれだけ速く走行できるかを競い合う。ロボットは光センサーを備えており,そこから得られた値によって白か黒かを判断する。そして,常に黒いラインに沿って走行できるように舵やモーターを制御する(写真2)。黒いラインの右端にセンサーが合うようにロボットを置き,白を検出したら左に,黒を検出したら右に舵を切るように走らせていくのが一般的な走り方だ。コースには,カーブや坂道などの難所が用意されている。また,通常のコースよりも走行しにくい仕掛けが施された近道もある。例えば木の棒が張り付けられたオフロードを通ればかなり近道になるが,障害物に車輪を取られないように走らなければならない。

 黒いラインを追うだけなら単純そうにも見えるが,実際は非常に難しい。参加者が最も苦労していたのは,黒いラインをセンサーで読み取ったときに得られる値が,周囲の明るさによって大きく変化すること。自然環境を相手にする組み込みソフトウェアならではの難しさだろう。同じコース内の両端部分で値が異なることも珍しくないし,時間帯によっても明るさは変わる。黒いラインをうまく認識できず,コースを外れてリタイアするチームも少なくない。ただ今回は,本大会で3割だったコースの完走率が5割まで上がり,チャンピオンシップ大会のレベルの高さを証明した。また,本大会ではどのチームも成功しなかったオフロードを2周とも軽々と越えるチーム(日産ディーゼル技術研究所から参加の「あどぶるぅ」)が現れるなど,会場を大いに沸かせる場面も多かった。

 見事優勝を勝ち取ったのは,NECソフトウェア北陸から参加した「ムンムン」(写真3)。カーブ,坂道などコースの形状によって走り方を変えるチームが多い中で,コース形状にとらわれずに舵を切る角度(操舵角)に応じて速度を制御するのがムンムンの特徴だ。操舵角が小さく,白と黒を交互に検知しているときはきちんとラインに沿っている状態なので,高速に走る。一定時間以上連続で同色を検知したとき(カーブや坂道などでコースを外れそうになったとき)は操舵角が大きくなるため,速度を落として転倒を防ぐ。シンプルな走行戦略で,危なげなくコースを駆け抜けた。2位には,同じくシンプルな走行戦略を採る「アルゴノーツ」(アルゴ21)が入った。日経バイトからも,本誌記事の企画「BYTE工作室」で作成したロボットがエキシビション走行に参加した。

 なお,本大会の結果とチャンピオンシップ大会の結果を比べてみると,上位3チームはすべて入れ替わっている。例えば本大会で1位だった「加賀百万石」(個人参加)は,今回はコースアウトして入賞できなかった。一方,今回1位を獲得したムンムンは,本大会ではアクシデントに見舞われ完走できなかったチームだ。常に変化する自然環境を相手にする上で,継続的に安定した力を発揮することがいかに難しいかを改めて思い知らされた大会でもあった。