受託ソフト開発などに伴う会計処理が、来春にも厳格化されることが確実になった。日本の会計基準作りを担う企業会計基準委員会(ASBJ)が、ソフトウエア取引のルール作りに乗り出すことを正式に決定したもので、10月中に「ソフトウェア取引等収益検討専門委員会(仮称)」を設置し、議論を始める。不透明な取引や粉飾決算の温床として社会問題化したIT取引のうち、まずソフトウエアを対象に会計処理に規律を与える。現在の案では、2006年4月以降に始まる会計年度から、ITサービス業界に新ルールの順守を求める方針だ。

 ASBJが、ソフト取引を対象にした会計ルールが必要と判断したのは、2004年に表面化した一部IT企業の粉飾決算問題を契機に、日本公認会計士協会や経済産業省からIT取引の問題指摘が相次いだためだ。具体的には、受託開発したシステムの検収と売り上げの認識が実態と合っていない、顧客へのハード・ソフトの納品までに、いくつものITサービス企業が取引を仲介することがある、といった点だ。しかも、こうしたIT取引の実態が公認会計士などの第三者からは把握しにくい。

 今回、ASBJがルール作りに乗り出すのは、IT取引のうちソフトに関わる取引。顧客から請け負うシステム開発において、ITサービス企業が「どの時点でどれだけの収益を計上するか」「計上に必要な要件は何か」などを議論する方針だ。例えば、検収時にユーザーから受け取る検収書に加えて、「稼働テストを実施した」といった成果物の証明を収益認識の基準にできないかなどを検討する。メディア・リンクス事件などで粉飾決算の手口に使われたような「仲介取引」は原則、議論の対象にはしない。ただし、ソフト取引にかかわる仲介取引に関しては、何重もの請負構造が外部から把握しにくい点を考慮し、売上計上にルールが必要かどうかを検討する。また、ITサービス業に特徴的な「ソフト開発に、コンサルティングや運用保守などを一体化した複合サービス」の取引に関してもルールの必要性を議論する。

 ソフト取引の会計処理については、米国で「SOP97-2」と呼ぶ会計基準が既に運用されている。ASBJの専門委員会もこの米国基準を参考にしながら、ルール作りを進めていく方針だ。新ルールの位置付けや今後のスケジュールは専門委員会でこれから議論するが、現在の予定では、06年3月をメドに、実務上の処理方法をまとめた「実務対応報告」として公表。直後となる06年4月から、顧客と取り交わす受託開発取引すべてに新ルールを適用させる。企業側が望めば、05年度分にさかのぼって新ルールを適用することも認める方針だ。

 ASBJでは、ITサービス業界の会計処理問題に対して、まず「情報サービス産業の収益検討ワーキンググループ(WG)」を7月に発足させ、ITサービス業界や監査法人の関係者を交えて、論点整理を行なってきた経緯がある。このWGが、今日開かれたASBJの総会で、専門委員会の設置を提言し、同日に承認された。専門委員会の委員長には、ASBJの西川郁生副委員長が就任する予定である。また委員には、ASBJの委員に加え、ITサービス業界からはNTTデータ、TIS、富士通の財務・経理担当者が、監査法人からはあずさ監査法人と中央青山監査法人の公認会計士が委員に加わる予定だ。

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