フェンリルは10月12日,タブブラウザSleipnir 2.00の正式版を公開した(関連記事)。Sleipnirはバージョン 1.66まで柏木泰幸氏が個人で開発していたが,2005年6月にフェンリル株式会社を設立し,バージョン2の開発を行っていた。柏木氏に,Sleipnirを開発した経緯や狙いを聞いた。(聞き手は高橋 信頼=IT Pro)

---Sleipnirを作り始めたきっかけは。

 大学生の時,友達とタブブラウザについて話していて「自分でも作れる」と思って,作り始めたのがきっかけです。ユーザーの使いやすさを追求して,様々な機能を作りこみました。ソフトウエア配布サイトなどで紹介され,次第にアクセスが増えていきました。

 学生時代は,ほぼ毎日全ての時間をソフトウエア開発にあてていました。あまり学校には行かず(笑)。ユーザーの声を聞いているのが楽しくて。それが原動力ですね。

 就職すると,仕事も忙しくなり,学生時代のようには時間を割けなくなりましたが。

---昨年の11月に,ソースコードの入ったパソコンが盗難にあったそうですね。

 家に帰ったら,引き出しの中が何もなくなっていて。パソコンは2台でミラーリングしていたんですが,2台ともなくなっていました。パソコン以外の物もなくなっていました。

 自分の身に起きたことが信じられませんでした。1週間寝込みました。

 よく,バックアップをとっていなかったのかと聞かれるんですが,ハードディスクの損傷までしか考えていなかったことが,今思えば原因でした。

 当時,Sleipnirのソースコードは20万行くらいになっていました。とても書き直す自信はありませんでした。

---開発再開に至った経緯は。

 盗難のあと,多くの反響をいただきました。それで,このまま開発をやめてしまうのはもったいないと感じるようになりました。どうにかしたい,と思いましたが,しかし仕事も忙しく,なかなか時間も取れない状況でした。

 以前から独立は考えていたのですが、開発に専念してSleipnirを元に戻すことができるのなら,と,独立を決意しました。

 以前の会社には非常にお世話になっていて,辞めるのは申し訳なかったのですが,理解していただくことができました。

 会社を作り,チームで,しかもSleipnirの開発に専念できるようになりました。開発スピードはやはり全然違います。

---ユーザーがIEから他のブラウザに乗り換える目的としてセキュリティがあります。

 IEでもActiveXコントロールを無効にしたりといったセキュリティ設定はできますが,Sleipnir 2.00 ではそれをわかりやすく,1クリックでできるようにしています。

 また,IEに脆弱性が見つかったらパッチを適用するまでGeckoを使う,Geckoに脆弱性が報告されたらIEのエンジンを使うといったようにエンジンを切り替えることでセキュリティを向上させることができます。

 我々の強みは,IEとGeckoの両方のHTMLレンダリング・エンジンを使えることです。これはMicrosoftにもMozilla Foundationにもできないことです。