2005年10月4日,総務省が開催した第10回「高速電力線搬送通信に関する研究会」において,2M~30MHzを使う電力線通信(PLC)のノイズレベルの許容値が決まった。PLCモデムの通信ポートにおけるノイズ電流(コモンモード電流)の許容量が30dBμAとなった。この値はパソコンなどの情報機器(国際規格であるCISPR22のクラスB機器)の通信ポートにおける電流の許容値と同じである。

 研究会の許容値作業班は漏洩電磁波の大きさを左右する電力線の特性を実測により調査し,シミュレーションなどを基に,PLCモデムを接続した電力線から10m離れた地点での漏洩電磁波のレベルを壁などの遮蔽物による減衰を考慮したうえで算出。それをPLCモデムの通信ポートにおけるノイズ電流量に変換した結果,30dBμAとなった。ただしノイズ電流の大きさは電力線の配線状態に応じて大きく変わる。研究会では,99%の家屋でこの値を実現することを条件にした。つまり電力線の状態が悪く,かなりノイズ電流が出やすい家屋も考慮したことになる。99%の家屋をカバーするには,電力線に流れるノイズ電流量を左右するパラメータであるLCL(Longitudinal Conversion Loss,横電圧変換損)が16dBとなる。

 許容電流量と電力線のパラメータそれぞれについて,推進派である業界団体と反対派である既存の無線通信関係者で意見は分かれた。許容電流量に関しては,業界団体であるPLC-Jは国際規格に適合した常識的なレベルだとして賛成。一方,反対派はまだ漏洩レベルが高すぎるといった意見や,我慢できる限界のレベルだとして賛成する意見などに分かれた。ちなみに,かねてから静穏な田園地帯の雑音レベルにまで下げることを要求していた日本アマチュア無線連盟によると,「35dB程度のノッチ・フィルタ(特定帯域の通信をカットするフィルタ)をアマチュア無線で使用する帯域に入れてもらえれば,要求している雑音レベルにまで抑えられる値だ」(日本アマチュア無線連盟 電磁環境委員会の芳野赳夫委員長)という。電力線のパラメータについては,反対派は賛成したのに対し,推進派は厳しすぎるとして緩和を求めた。だが結局,研究会の提案通り99%の家屋をカバーすることになった。

 今後総務省がパブリックコメントを募集し再び研究会で議論するが,細かい修正はあるものの基本的には今回の許容値が採用される可能性が高い。関係する法令が改正され,実際に製品が出回るのは年明けになる見込みだ。

【訂正】 1段落目の2行目に「PLCモデムの通信ポートにおけるノイズ電流(コモンモード電流)の許容量が30dBμAとなった」とありますが,正しくは「屋内の電力線を流れるノイズ電流(コモンモード電流)の許容量が30dBμAとなった」です。また,2段落目の2行目,「それをPLCモデムの通信ポートにおけるノイズ電流量に換算した結果,30dBμAとなった」とありますが,正しくは「それを電力線に流れるノイズ電流量に変換した結果,30dBμAとなった」です。お詫びして訂正いたします。